会社概要

上田雄太氏(以下、上田):株式会社パシフィックネット代表取締役社長の上田雄太です。本日はお忙しい中、当社の個人投資家向けIRセミナーにお越しいただき、ありがとうございます。

本日は、当社の過去、現在、未来の展望について、時間の許す限り精一杯お話しします。よろしくお願いします。

まずは会社概要です。当社は1988年に設立され、今期で38期目を迎えます。本社は東京都港区芝にあり、事業内容はパソコンを中心としたライフサイクルサービスです。

拠点は、北は札幌、南は福岡まで、全国できめ細かい対応ができる体制を整えています。連結従業員数は277名、グループ会社は2社で、いずれもM&Aによりグループインしています。

ご挨拶

上田:私の経歴をご紹介します。私は創業者であり、現在は会長を務めている上田満弘の長男です。私の最初のキャリアはパシフィックネットではなく、エレクトロニクス業界の中でも半導体という電子部品を法人向けに提案する活動をしていました。

2014年に当社へ入社し、最初の1ヶ月は経営企画室に所属しました。その後は合弁会社の設立に伴い、2017年からはM&A先の会社に出向していました。

キャリアのほとんどをグループ会社で過ごしており、そのような意味では、少しユニークなキャリアを積んできたと思っています。2023年8月から現在の職に就き、会長と社長の2名体制で現在に至ります。

経営理念

上田:当社の経営理念は、「企業のIT支援を通し、『人々』『社会』を幸せにしたい」です。こちらは、業態転換を行った2017年に新たに設定した、現在の当社の根幹となるものです。企業のIT課題を解決し、それを通じて社会に貢献していきたいと考えています。

ビジネスの全体像

上田:当社のビジネスの全体像です。パソコンの導入から運用・入替・処分までワンストップで支援する、パソコンのライフサイクルマネジメント(LCM)を提供しています。

企業のIT部門が抱える課題

上田:なぜLCMが重要なのかというと、企業のIT部門が抱える課題にあります。

もともとIT部門は、多岐にわたる業務範囲もさることながら、慢性的なリソース不足に苦しんできました。多くの企業では、IT担当者が不足していると言われています。よくあるのは、システムトラブルやインシデントなどの緊急対応に追われ、本来手掛けるべき戦略的な業務が後回しになっている状況です。

そもそもパソコンの業務には労働集約的なものも多く、多大な時間と労力を要します。まとめると、「企業のIT部門は“守り”に追われ、“攻め”ができない」という実情をずっと抱えています。

当社の提供価値

上田:当社の提供価値は、そのようなパソコンの運用管理業務をすべて包括的にアウトソースできるということです。

これによってお客さまの情報システム部門はリソース不足から解消され、企業の情報システム部門が本来行うべき戦略的な業務に注力できる環境、つまり時間を創出することができます。ノンコア業務をすべて受け入れることが、当社の提供価値です。

パシフィックネットは情シスの課題を人とITで解決する会社

上田:パシフィックネットは、情報システム部門の課題を人とITで解決する会社として、今後も事業を拡大していきます。

事業セグメント

上田:事業内容です。当社の事業セグメントは、3つに分かれています。

1つ目は、ITサブスクリプション事業です。こちらはパソコンのライフサイクルのうち、調達から運用・保守までを提供しており、売上の71パーセントを占める主力事業となっています。

2つ目は、ITAD事業です。こちらはパソコンのライフサイクルの後工程を担当し、入替から適正処理までを提供します。こちらは、売上の26パーセントを占めています。2017年の業態転換まではこの事業が主力事業となっており、売上の大半を占めていました。

3つ目は、コミュニケーションデバイス事業です。こちらはグループ会社であるケンネット社の事業となっており、音声ガイドやイヤホンガイドを観光業界向けに提供しています。

事業① ITサブスクリプション事業

上田:ITサブスクリプション事業についてご説明します。こちらはパソコンのライフサイクルのうち、調達から運用・保守までを提供する事業です。最大のポイントは、ストック中心の収益型モデルになっていることです。

ストック型モデルのため外部環境の影響を受けにくく、継続的に安定的な成長が見込めます。契約期間は3年から5年と長く、この契約期間中に情報システム部門に需要のある他のITサービスを提供することで、収益の積み上げが可能となっています。

当社は、このITサブスクリプション事業におけるストック収益の最大化を最重要課題としています。

バランスシートから見た収益構造

上田:ITサブスクリプション事業は、バランスシートとも密接に連動しています。まず、パソコンを調達するため、金融機関から資本を借り入れています。

調達したパソコンはサブスク資産となり、お客さまに貸し出すことでサブスク利益を生みます。約3年から5年の継続的な収益となっており、レンタル終了後はリユースパソコンとしてセカンダリマーケットに売却される流れとなっています。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):ビジネスモデルについてうかがいます。サブスクでパソコンを貸し出し、それが終わった後はリユースに流すというお話について、売却益はどのくらいになるのでしょうか?

おそらくその時の相場や機種によって異なると思いますが、おおよそでけっこうですので教えていただけますか?

上田:機種や状態によりますが、仕入価格の1割から2割ほどで売却できています。減価償却しているため、簿価が残っているものもあり一概には言えませんが、仕入価格の平均1割から2割程度で売却が進んでいる状況です。

坂本:非常にエコであり、ビジネスモデル的にもきれいだと思いました。

事業② ITAD事業(IT Asset Disposition)

上田:ITAD事業です。こちらは、パソコンのライフサイクルの後工程となるパソコンの入替からデータ消去、適正処理までを担当しています。ITADは「IT Asset Disposition」と呼ばれ、「適正処理」を意味します。欧米では、この工程を「ITAD」と表現しています。

こちらの収益モデルは、フロー中心となっています。そのため外部環境の影響は受けやすいものの、最近ではデータ消去をはじめとした頻繁に発生する情シス代行サービスに注力しており、パソコンの中古販売に依存しない収益構造を確立することにより、安定性を確保しています。

また、固定費を抑えた運営によって、需要変動への対応と高収益な体制を実現しています。

PC周りの情シス需要を網羅的にカバー

上田:ITサブスクリプション事業とITAD事業により、ワンストップのパソコンLCMサービスが完成します。パソコン周りの情シス需要を網羅的にカバーしたサービスを拡大することで、我々はパソコンのコンシェルジュを目指しています。

事業③ コミュニケーションデバイス事業(グループ会社:ケンネット)

上田:最後に、コミュニケーションデバイス事業です。こちらは、グループ会社であるケンネット社の事業となっています。

ガイドレシーバーや「イヤホンガイド」の製造・販売・レンタルを行う事業で、旅行関連市場では国内No.1のシェアを獲得しています。年間約70万台の出荷実績があり、大手旅行代理店の添乗員付きツアーの定番アイテムとして、長らく「イヤホンガイド」が定着しています。

坂本:「イヤホンガイド」について質問です。先ほどバスガイドのお話がありましたが、こちらは日本語対応でしょうか? 英語対応もあり、博物館などで使えるものもあるのでしょうか?

上田:こちらは機器に録音されているものではなく、あくまでもガイドする方の言語に依存するものとなっています。リアルタイムの音声ガイドシステムのため、日本人が話せば日本語の、外国の方が話せば外国語のものとなります。

市場環境① ビジネス向け新規PC出荷台数

上田:市場環境についてご説明します。1つ目に、私たちはパソコンの出荷台数を重要視しています。日本のパソコンマーケットは海外と比べても落ち着いており、年間約1,200万台がユーザーの元に届きます。法人に届くものは、そのうちの3分の2となっています。

法人向けのパソコン出荷台数は、MicrosoftのWindows OSのアップデートによって定期的に需要の変動を繰り返しています。例えば、「Windows 7」のサポートが終了した2019年度を頂点として、その後2年間は出荷台数が減少しました。

そしてまた、今回の「Windows 10」のサポート終了に向けて需要が拡大しています。このような一定の市場のライフサイクルを繰り返すことが、本事業の特徴となっています。

一方で当社の連結売上高は、このような市場環境に左右されず、右肩上がりに成長しています。これは、当社がITサブスクリプション事業においてストック型ビジネスを展開していること、また、需要の変動とは関係のない、パソコンの需要を網羅したLCMを展開していることが大きな要因となっています。

荒井沙織氏(以下、荒井):Windows OSの更新による需要変動の背景について、もう少し詳しく教えていただけないでしょうか? 

上田:もともとWindows OSのアップデートは定期的に行われており、それに合わせて企業はパソコンの入替を行う習慣があります。

今回は2025年10月に「Windows 10」のサポートが終了することになっており、それに向けてパソコンの入替を行う企業が増えています。したがって、現在は需要が高まっているという背景があります。

市場環境② 深刻な情シス人材の不足

上田:市場環境の2つ目は、情シスの人材不足です。経済産業省によると、2030年には約59万人が不足すると言われています。

これは、島根県の人口に匹敵する人口です。ITニーズの増加は増えているにもかかわらず、それを実行する人がいないという、需要と供給のバランスが大きく崩れる関係となっています。これにより、当社のLCMサービスへのアウトソースのニーズが増加しているという背景があります。

市場環境③ LCMサービスの広がり

上田:市場環境の3つ目は、LCMサービスの広がりです。先ほどの人手不足を背景に、当社のLCMサービスが年々拡大しています。当社が提供するITサブスクリプション事業、ITAD事業、それに付随するIT支援サービスのいずれも、需要が拡大することを見込んでいます。

市場環境④ サブスク利用のPCの増加

上田:市場環境の4つ目は、パソコンの導入形態です。2016年度と2026年度を比べると、サブスクの導入形態が大きく増えています。2016年度は48万台だったレンタルPCが、2026年度には96万台まで増加する傾向にあります。

また、パソコンの導入形態も、従来の購入やリースだけでなく、新しい選択としてサブスクも認められるようになっています。2016年度は8パーセントだったものが、2026年度には13パーセントまで拡大すると見込まれています。

坂本:市場の拡大についてうかがいます。御社はサブスクも手掛けていますが、リースとサブスクの違いについて教えてください。会計上の違いもあるかもしれませんが、企業側からの利用や需要の変化についてお話しいただけますか?

上田:リースとサブスクの違いについては、初期投資を抑えて分割で支払うという意味では同じようなサービスですが、リースはあくまでもファイナンスに特化しており、基本的にそれ以外のサービスは一切提供しません。

一方でサブスクは、運用保守というサービスが付帯しています。例えば導入時のキッティングや故障時の交換、そして入替時のデータ消去から再販まで行うのが、当社のサブスクとなっています。

坂本:進化したリースが、サブスクというイメージですね。

荒井:サブスクの導入がこれだけ増えている理由についても教えていただけますか?

上田:まずは、認知度が向上したということがあります。従来、日本のマーケットでは、購入かリースの2択しかありませんでした。

しかし、昨今の人手不足を背景に、サービスを求めるお客さまが増えてきました。そして、我々のようなサブスク事業者がサービスの認知度を上げることで、現在は需要が増えているといったトレンドが起きています。

サービスを支える人材

上田:競争優位性についてご説明します。当社は、先ほどお話しした市場環境を捉えて成長を続けていますが、中でもサービスを支える人材が一番の強みであると考えています。

我々は創業以来、パソコンに関する豊富な経験とスキルを培ってきました。現在も従業員の約4割がIT人材で構成されており、同業他社と比べても大きな特異点となっています。

また、お客さまからの評価も高く、継続率は95パーセントと非常に高水準です。さらに、これまでに1万5,000社の取引実績もあります。

坂本:継続率95パーセントは非常に高いと思います。他社にも同様のサービスが少なからずあるかと思いますが、この継続率の高さの理由を教えていただけますか?

上田:まずは、サブスクという新しいサービスをよく理解し、「リピートしたい」というお客さまが多いことが一番の理由となっています。

お客さまはパソコンを使いたいだけでなく、「負荷を軽減したい」といった付加価値も求めています。当社のITサブスクリプション事業はそのような付加価値を提供するものであり、企業ごとにカスタマイズすることで、その継続率を伸ばしていくという戦略で進めています。

坂本:確かに、パソコンが壊れた際はおそらくシステム担当の人が対応されると思いますが、それもかなり煩雑です。そのような部分を御社が巻き取るという利便性があるのでしょうか?

上田:おっしゃるとおりです。

優位性:ITサブスクリプション事業

上田:ITサブスクリプション事業の競争優位性についてご説明します。先ほどお話ししたとおり、当社にはパソコンに精通したエンジニアが多数在籍しています。そして独自のワンストップLCMサービスがあり、こちらが競合との優位性になっています。

また、ITサブスクリプション事業には参入障壁があり、こちらは資金調達力がものをいいます。例えば、1台10万円のパソコンが10万台必要だとすると、100億円のキャッシュが必要となります。ここが一番大きな参入障壁です。

坂本:参入障壁に関連して、御社がカスタマイズを行うには、やはり技術者の方がいるからこそニーズを巻き取れるという面があると思います。

おそらく御社のレンタルのパソコンはWi-Fiが入っているなど、かなり使いやすくなっていると思いますが、どのようなカスタマイズができるかについて、一例を教えていただけますか?

上田:まずは、それぞれのお客さまのIT環境に合わせたキッティングを行います。しかし、それでは他社も同じようなことを提供しているため、当社はそのもう一歩先である、運用中の運用・保守というサービスを行っています。

具体的には、ヘルプデスクです。専用の窓口を引いており、ふだん利用していてなにか故障が起きた時にはそこにお問い合わせをいただくというカスタマイズも手掛けています。

坂本:導入企業にとっては、かなりの負荷軽減になりますね。

優位性:ITAD事業

上田:ITAD事業の競争優位です。ITAD事業においては、まずセキュリティが最大の参入障壁となっています。

当社は、ISO27001(ISMS)というセキュリティマネジメントシステムの認証を取得しています。昨今のセキュリティ意識の高まりから、お客さまに安心してご利用いただけるよう、業界最高水準のセキュリティ設備と人材を管理しています。

全国7拠点のテクニカルセンターと物流ネットワークも、当社の自慢です。また、このITAD業界において、当社は唯一の上場企業であり、その信頼性がお客さまとの長期的な関係を維持しています。

市場におけるポジショニング

上田:スライドは、これまでの競争優位性のご説明をもとに、市場における当社のポジショニングを示したものです。

IT機器のLCMをワンストップで手掛ける上場企業は当社だけであり、IR上の競合はありません。この独自のポジショニングと信頼性で、当社は競合との差別化を行っています。

当社の歩み① 売上高の推移と歴史

上田:当社の歩みについてご説明します。現在、当社はパソコンのLCMサービスを展開していますが、もともとはITAD事業が祖業でした。

当社は「パシフィックレンタル」という名前で創業し、パソコンのレンタルを行っていました。当時はまだインターネットなどはなく、パソコンが1台100万円ほどする時代でした。そのため、イベント会社やソフト会社に貸し出すと、飛ぶように売れたそうです。

その後は資金調達が難儀し、レンタルから小売業へ転身しました。リース会社や法人企業が排出するパソコンを仕入れ、データを消去し、個人に再販していた事業が、現在のITAD事業につながっています。

この事業が功を奏し、2006年には、企業から仕入を行う中古パソコンの小売業として唯一、東証マザーズに上場しましたが、その後はリーマン・ショックや東日本大震災の影響もあり、10年ほど足踏みしていました。

また、もともと外部環境の変化に弱いITAD事業がメインだったため、業績が停滞していました。そこで、2017年から2018年にかけては全国に12店舗あったパソコンショップを段階的に撤退し、現在進めているITサブスクリプション事業に事業転換することにしました。

つまり、現在、我々が進めているパソコンのLCM事業を伸ばしている期間は、2017年からとなっています。

当社の歩み② 構造改革による収益構造の変化

上田:2017年に行った構造改革は、紆余曲折を経て7年が経ち、ストック売上は5.4倍になりました。もともと2割だったストック収益は、現在70パーセントまで拡大しています。今後も、当社はストック収益の拡大を最重要課題として、企業の成長に努めていきます。

直近の業績(25年5月期第3四半期)

上田:足元の業績です。25年5月期第3四半期の開示ベースになりますが、売上高は6期連続で過去最高を更新しました。営業利益も堅調に推移し、3期連続の前年同期比増益となりました。期初に立てた業績予想に変更はありません。

成長戦略

上田:当社の成長戦略です。既存事業の安定成長をベースに、顧客層の拡大とサービス開発により成長の裾野を拡大していきます。ITサブスク事業、ITAD事業、コミュニケーション・デバイス事業と、これら既存事業をベースとして時間軸とともに企業価値を向上し、収益の拡大をさらに続けていきます。

成長戦略:ITサブスクリプション事業

上田:サブスク事業の成長戦略です。サブスク事業は後発で参入したマーケットのため、成長の余地があると考えています。したがって、事業規模の拡大と資産効率の向上を基本方針としています。

基本的な戦略は、当社がターゲットとしている従業員1,000名までの顧客を開拓することです。パソコンの貸出台数を増加させ、ストック収益を拡大させていきます。そして3年から4年の長い継続期間の間に、さらにITサービスをクロスセルしていきます。

2025年は、「Windows 11」の移行に伴う大きな需要が本格化しています。この事業機会を確実に取り込み、さらなる成長を遂げていきます。

成長戦略:ITAD事業

上田:ITAD事業の成長戦略です。こちらはトップラインよりも採算性を重視した戦略で、安定した収益確保を基本方針としています。戦略としては、処分に課題を抱える従業員1,000名以上のエンタープライズ企業を中心に、開拓を続けています。

そして、ITサブスク事業とのシナジー効果等もあり、互いの顧客に対してサービスのクロスセルを行っています。

現在の進捗状況としては、すべて順調に推移しています。こちらの事業機会は、「Windows 11」への移行に伴う需要の本格化と、学校教育に対して1人1台タブレットを配布するGIGAスクール構想における入替の影響などがあると考えています。

企業価値向上の取り組み:人的資本経営

上田:企業価値向上の取り組みについてご説明します。

当社はサービス業ですが、有形なサービスを取り扱っておらず、人が付加価値の源泉であると考えています。したがって、人的資本経営に注力しており、人に対するあらゆる取り組みを行っています。

生産性向上と業務効率化のために、生成AIやDXツールを活用し、直近では約6,800時間の業務時間を創出できました。

また、エンゲージメント向上のためにエンゲージメントの調査を年2回実施しています。経営メッセージを社内報や表彰イベントを通じて行い、称賛文化の醸成を行っています。人事給与制度も改定し、継続的な賃上げも行っています。

そして、働きやすい職場環境にも力を入れています。当社は月の平均残業時間が6.1時間と大変短く、さまざまな方が働ける環境となっています。

さらに、人材育成と採用も強化を続けています。通年で新卒キャリア採用を行い、最近ではプロフェッショナル人材の採用も行っています。オンライン学習によるリスキリング促進を行い、生成AIの研修なども行っています。

企業価値向上の取り組み:IR

上田:株主のみなさまとのコミュニケーションも企業価値の向上だと考えており、IR活動を拡充しています。

直近では、メディア出演を行いました。当社がスポンサーを務める「ラジオNIKKEI」に出演したり、「YouTube」チャンネルでの対談動画に出演したりしました。今後も、あらゆる媒体でのメディア出演を検討しています。

坂本:私も「ラジオNIKKEI」をたまに聞いており、藤本さんとスタジオで会うこともあります。

こちらはどのような理由からスポンサー提供を行っているのでしょうか? 当然ながら知名度向上につながると思いますが、どちらかというとBtoCの方が見ている番組だと思います。それを活かしたPRとはどのようなものでしょうか? 営業につながるシナジーがあれば、教えてください。

上田:投資家向けの知名度向上のため、8年前からラジオ番組のスポンサーを務めています。もう1つの理由は、坂本さんがおっしゃるとおり、営業のためです。毎回、上場企業の社長が番組に出演しており、事前取材に当社の営業社員も同席しています。

そこで、我々のターゲットである企業の情報システム部門をご紹介いただき、それが営業活動につながっています。

坂本:どちらかというと自社PRのためにスポンサーになるかと思いますが、とても画期的な営業ですね。継続しているということは、効果があるということですか? 

上田:これまでに1,000回以上放送しており、非常に高確率で紹介を受けています。

ラジオ以外の情報発信は、メディアプラットフォーム「note」で、四半期ごとに決算解説を公開しています。また、投資家との質疑応答集も四半期ごとに情報発信しています。

投資家向けの施策としては、本日のような個人投資家向けのIRセミナーの実施や、機関投資家向けのIR面談を通年で行っています。

ESG経営の推進

上田:持続可能な社会の実現に向けて、ESG経営にも力を入れています。

特に環境に関しては、当社の事業そのものがシェアリングエコノミー、サーキュラーエコノミーの実現に直結しています。当社のパソコンのレンタル、リユースを通じて、CO2の削減に今後も貢献していきます。

また、社会やガバナンスを通じて、働きがいのある環境や強固な経営基盤に今後も努めていきます。

株主還元

上田:株主還元です。配当性向は30パーセント以上、かつDOE(純資産倍率)5パーセント以上が目標です。

配当の累進性を意識しており、堅実に配当金額を上げている点が当社の特徴の1つです。安定成長と積極的な株主還元を通じて、投資家のみなさまが満足する水準の配当を維持・向上させていく方針です。2024年の5月期の配当性向は49.5パーセント、DOEは7.4パーセントでした。

私からのご説明は以上となります。

質疑応答:具体的なビジョンと今後の夢について

坂本:「上田社長に質問です。資料に成長戦略の記載がありますが、何年後にどういう状況にしたいかというビジョンを教えてください。また、社長はどのように会社を伸ばしていきたいのか、夢を教えてください」というご質問です。

上田:成長戦略は5年間ほどの時間軸で見ており、現在は2025年のため、2030年あたりをイメージしています。当社の成長戦略は、既存事業の成長をベースに持続的な成長を遂げていくものとなっています。

そして、私たちの夢は、単にITサービスの提供だけでなく、お客さまのビジネスにとってなくてはならない存在となることです。お客さまがITで困った時に「パシフィックネットに相談しよう」と心から思っていただける、そのようなパソコン周りのコンシェルジュになることが当面の目標です。

坂本:現状のサービスから2030年にかけて伸ばしたいものがあれば、教えてください。

上田:既存事業のITサブスク事業では、パソコンの貸出台数をさらに増やしていきたいと考えています。

10万台、20万台、50万台と当社の貸出台数が増えることで、それに付随するLCMサービスもクロスセルできます。顧客拡大とともにパソコンの貸出台数も増やしていく戦略をとっています。

質疑応答:金利上昇の影響について

坂本:「銀行から借り入れてパソコンを買うというサイクルに関して、十分なマージンはあると思いますが、足元の金利上昇の影響はあるのでしょうか?」というご質問です。

上田:金利がある時代になり、以前よりも借り入れする際の金利は確かに増えてきています。

ただし、当社はもともと固定金利をとっています。例えば借入期間が3年とすると、その3年間は固定であるため、基本的には借りた時の金利が維持されるため、影響はほとんどないと思っています。

また、金利が上昇しているとはいえ、海外と比べると微々たるものです。現在も、資本コストを考えた時にデッドファイナンスを続けていく戦略です。

坂本:御社の会社の運営では、購入したパソコンを貸すビジネスは資金の回収性が非常に高いと思います。おそらく銀行からの御社事業への評価も高いと思いますが、借入枠はまだ伸ばせそうなのでしょうか?

借入がストップすると、それがネックになります。もちろん株式市場に上場しているため、直接調達する社債などのやり方もありますが、そのあたりのデッドファイナンスの調達の上限は出てきそうですか? 感触でもかまいませんので、教えてください。

上田:当社が本事業に後発で参入してからまだ8年ほどであるため、資金調達に余裕はあると認識しています。ただし、今後当社がパソコンを100万台、200万台、300万台と貸し出すタイミングになった時に、デッドファイナンスだけでは厳しくなる可能性もあります。それでも、現時点において資金調達に関して問題はありません。

金融機関のみなさまも、当社の借入を活用して資産を運用するビジネスに対して大変理解を示しています。当社のバランスシートは基本的にリース会社のような状態になっており、資産が大きく自己資本比率が下がっていますが、そのような点も許容されています。

坂本:借入口を増やしていくという方法もありますね。最近は実施していませんが、パソコン製造メーカーのファイナンス会社が残っていると、そこにも可能性はありますか?

そのメーカーのパソコンを導入するから、メーカー系列のファイナンス会社からリースとして入れてもらうようなこともあり得るのでしょうか? 

上田:現時点で、そのようなコンタクトはありません。ただし、サブスク事業を行っている競合他社は親会社がメーカー系であるため、親会社からファイナンスの支援を受けている会社はあります。

坂本:おそらく御社を見ている方は、そこがネックになると思ったため質問しました。丁寧にお答えいただき、ありがとうございます。

質疑応答:中古PC市場の見通しについて

荒井:「中古PC市場について、過去の推移とこれからの見通しを教えてください」というご質問です。

上田:中古パソコン市場は昨今の物価高騰や環境意識の高まりもあり、年々拡大しています。2023年頃のデータですが、国内市場で約1,000億円のマーケットがあると言われています。

そして、2025年には「Windows 10」のサポート終了というイベントがあります。今後は企業から続々と使用済みパソコンが当社に入ってくる流れもあるため、しっかりとデータを消去して再販することで、当社が中古市場をさらに後押しするような存在になりたいと考えています。

坂本:現在もパソコンの性能がある程度上がっているとはいえ、かなり緩やかになってきている部分があるため、長く使えるパソコンが増えています。そのような状況から、中古市場も活況なのかと思いますが、いかがでしょうか? 

上田:特にデスクトップパソコンは持ち運びしないため、基本的に壊れにくいという特徴があります。5年、10年落ちでも、まだまだ使えるパソコンもあります。

坂本:中古市場はノートパソコンのイメージでしたが、御社はデスクトップパソコンも多く取り扱っているのでしょうか?

上田:そのとおりです。一方で、ノートパソコンはバッテリーの耐久性がなくなってしまい、最近では各メーカーもバッテリーの交換に応じず、新しいパソコンへ入れ替えている状況です。そのため、ノートパソコンのほうが中古のサイクルが速くなっている印象があります。

坂本:御社はデータの消去だけ行い、バッテリーの交換はしていないのでしょうか? 

上田:バッテリー交換ができる型番に関しては行います。

坂本:バッテリーを外せるものということですね。

上田:例えば、パナソニックの「レッツノート」や一部のパソコンは、まだバッテリーの交換ができます。そのような商品は対応や修理を行いますが、現在のパソコンは基本的にスマートフォンと同様、バッテリーが内蔵されています。

質疑応答:中期経営計画の非公開と今後の策定予定について

荒井:「過去に公表していた中期経営計画を非公開にした理由と、今後の策定予定の有無を教えてください」というご質問です。

上田:現在、目標数値の開示は行っていません。8年ほど前に一度、中期経営計画を公表したことがありますが、その時は業態転換を行った時期でした。会社のベクトルをある方向に向けるという意味合いでも、中期経営計画を出すことで社内の人間のエネルギーを一方向に向けるという目的がありました。

一方、数字の蓋然性や戦略の確実性が年々怪しくなってきたことから、前回の中期経営計画を公表した際、投資家のみなさまにご迷惑をおかけした経緯があります。そのため、今回は公開していません。

また、当社はIT業界という変化の速い業界に身を置き、後発で参入したマーケットでもあります。明確な数字や具体的な競争戦略を出すことで、非上場企業である競合他社に対して戦略を漏らしてしまうリスクもあります。

そのようなリスクから、現在の当社のステージは中期経営計画にあまり前向きではないというのが正直なところです。

質疑応答:「Windows 10」サポート終了の影響について

坂本:「御社の今までの業績を見ると、『Windows 10』のサポート終了が大きな売上利益を出すポイントだと思います。『Windows 10』のサポートの終了の効果が業績に対して効果を発揮するのは、山で言うと何号目あたりでしょうか?」というご質問です。

上田:2025年10月がサポート終了の時期のため、基本的には10月がピークになります。現在は6月ですが、山でいうと5合目です。

坂本:毎回駆け込み間際で売上が出てくるイメージですが、今年もそうですか?

上田:サポート終了にも、少しからくりがあります。10月でサポートが終了しますが、10月までにパソコンを出荷するディストリビューターやメーカーが多いです。したがって、当社が在庫を保管し、10月以降も「Windows 10」から「Windows 11」の入替の提案ができる状況にしています。

2025年10月で対応は終わらず、2026年上半期あたりまでは一定の水準で波があるだろうと考えています。

質疑応答:新リース会計の基準変更の影響について

坂本:「2027年度から適用される新リース会計の基準変更について、御社に影響はありますか?」というご質問です。具体的なご質問ではありませんが、お答えできる範囲で教えてください。

上田:新リース会計基準については、我々も以前から研究しています。5,000米ドル以上の商品は新しい会計基準の対象になりますが、新規リース会計基準は貸手ではなく、借手がバランスシート上でどうするかという問題です。

そのため、我々というよりも、お客さまが50万円や70万円のパソコンを調達した際、バランスシート上の会計が変わってきますが、事業者側の影響はありません。特に、我々は測定器などの高単価な商材ではなく、値段が安価なパソコンを取り扱っているため、お客さまへの影響もないと考えています。

質疑応答:投資計画について

坂本:中期経営計画は公開しないというお話でしたが、M&Aの可能性など、現在構想している投資計画を可能な範囲で教えてください。

上田:M&Aは、成長戦略の1つとして考えています。グループ会社の2社もM&Aを行った会社であり、過去にも実績があります。ただし、当社とのシナジーがあるかどうかという点と、顧客の拡大につながるかという点を注視しています。

一緒にシナジーを得ることができるパートナーが見つかれば、M&Aに関しても適宜動いていきたいと考えています。

坂本:いわゆる本業周りのパートナーであれば、という話ですね。

上田:そのとおりです。

荒井:最後に、本日ご覧になっているみなさまへメッセージをお願いします。

上田氏からのご挨拶

上田:本日は、当社のIRセミナーにお越しいただき、誠にありがとうございました。今後も、パシフィックネットをどうぞよろしくお願いします。本日はありがとうございました。

当日に寄せられたその他の質問と回答

当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。

<質問1>

質問:東京証券取引所(以下、東証)では、2023年3月31日、プライム市場及びスタンダード市場の全上場会社を対象として、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請を行っています。貴社ではどのようなことに取り組んでいますか?

回答:当社は、東証の「資本コストや株価を意識した経営」要請に対し、資本効率の分析とIR強化に取り組んでいます。現時点では、コーポレートガバナンス報告書に「検討中」として対応を明記し、資本コストやROE等の指標を踏まえた経営指標の設定を進めており、随時、取締役会でも議論されています。

また、機関投資家との面談や、アナリスト説明会や個人投資家向けセミナーを通じた対話強化、開示情報の充実により、透明性ある経営を推進しています。今後も資本市場からの評価向上に向けた取り組みを強化していきます。

<質問2>

質問:業績好調にもかかわらず、この1年の株価は低調な推移です。上田社長の株価に対する評価をお聞かせください。また、現在株価が低調な理由をどう分析し、どのような対応を進めているのか教えてください。

回答: 株価は、私たち経営陣にとって市場からの重要な評価指標であり、現状が当社の真の価値を十分に反映しているとは考えておらず、重く受け止めています。

足元の業績は好調であるにもかかわらず、市場での評価が低いのは、当社のビジネスモデルや成長性が十分に伝わっていないためだと認識しています。これまでのIR活動は必ずしも十分とは言えず、その結果として、市場における当社の認知度には伸びしろがあると考えています。この状況を打開するため、今後は投資家のみなさまへの情報発信を一層強化していきます。

具体的には、定期的な説明会の開催や、SNS・動画コンテンツを活用したIR活動を強化し、より多くの方に当社の魅力をお伝えしていきます。あわせて、当社のビジネスモデルの優位性や、資本効率を高める具体的な施策についても、積極的に発信していきます。

株主のみなさまからお預かりしている大切な資金を最大限に活かし、当社の真の価値が市場で正しく評価されるよう、経営陣一同、全力で取り組むことをお約束します。

<質問3>

質問:BSにレンタル資産を計上すると、すぐに売上貢献するのでしょうか? それともラグはありますか?

回答:当社のITサブスクリプション事業は、ストック型の収益モデルとなっており、レンタル資産は取得・計上後、契約期間に応じて売上が段階的に計上されるため、全額が即時に反映されるわけではありません。ITAD事業のようなフロー型の収益とは異なり、売上への反映には一定のタイムラグが発生します。この仕組みにより、ITサブスクリプション事業は長期的かつ安定的な収益基盤を形成しています。

<質問4>

質問:調べたところ、ノートPCの会計上の耐用年数は4年らしいのですが、実際の使用期間との乖離はありますか? また、御社の業績予想をする上で減価償却周りで留意するべきポイントがあれば教えてください。

回答:法定上の耐用年数は原則4年ですが、当社では案件によりレンタル期間が異なり、短期の貸し出しもある一方、おおよそ3年から5年程度の貸出期間が中心となっています。

減価償却費は、サブスクリプション資産の取得時期によって先行して発生することがあり、特に需要期には新旧端末の入れ替えが重なることで一時的に償却費が増加し、利益を圧迫する場合があります。

このような影響を最小限に抑えるため、入荷タイミングの調整や資産稼働率の向上等に取り組んでいます。一部は在庫品として取得するケースもありますが、基本的には受注に紐づいた資産の取得を行っていますので、多少のタイムラグはあるものの、売上と減価償却費は概ね連動して推移します。

<質問5>

質問:PC価格が上がっている分、きっちり価格転嫁できていますか?

回答:円安等の影響により、サブスク資産の取得単価は上昇傾向にあります。競合との価格競争に配慮しつつも、可能な限り価格転嫁を進め、適正な利益確保に努めています。ただし、競合環境を踏まえると利幅の大幅な拡大には限界があり、業績への影響は限定的です。

<質問6>

質問:自己資本比率の低下は借入金の増加が主因との理解でよいでしょうか? 特需を見込んだ短期的なものでしょうか?

回答:ご認識のとおり、自己資本比率の低下は、主にITサブスクリプション事業の拡大に伴う資産取得のための借入によるものです。当社では、基本的に受注確定後に機器を調達しており、解約リスクも極めて低いため、借入による資産拡大は健全な成長プロセスと位置づけています。

当社のビジネスモデルは初期投資型であり、中長期にわたって安定収益を生む構造のため、レバレッジを活用した成長戦略は合理的で、金融機関からも高く評価されています。

このような構造的特性より、自己資本比率は今後も一定の低下が見込まれますが、これはあくまで戦略的な資本活用によるものであり、結果として当社の財務体質は、安定収益を基盤とするリース会社に近いバランスシート構造へとシフトしていくと認識しています。

今後も、財務の健全性と成長性の両立を図りながら、持続的な事業拡大を進めていきます。