質疑応答:今後のグローバルな観点でのカーボンプライシングへの対応について
質問者:本日は、前段にLNGビジネスの拡大戦略、後段に脱炭素社会実現への挑戦についてご説明いただきました。GHGにどのようにプライスがつくのかが極論になってくるとお見受けします。
御社の戦略や財務を考える際、GHGの削減や排出に関して、グローバルに一物一価にはならないかもしれませんが、カーボンプライシングによってGHG1単位の排出と吸収がシングルプライス化され、市場原理が働くと思われます。そちらに乗ってビジネスを展開するためには、どのように取り組んでいくのでしょうか?
究極としてこのような考え方があると思っていますが、一方で、各国の支援や規制の状況を鑑みると、前段でご説明いただいた部分においてもシングルプライスではないかたちで支援や規制をしています。
GHGを1単位削減することと1単位排出することが等価にならないのはおかしいと思いますが、政策が等価になるよう収束するかと言うと、そのようなわけではありません。エリアによって異なるかもしれませんが、今後の戦略上や投資判断において、シングルプライス化を前提にどのように考えていますか?
それとも、ルールや規制が乱立している中でさまざまなところに乗るのは、20年、30年先も考えていかないのでしょうか? 社長や事業本部長のみなさまが、社内で財務的にどのように咀嚼されているのか教えてください。
上田隆之氏(以下、上田):本日の出席者は、すべて一家言あると思いますが、まずは私からお答えします。
こちらは、極めて重要な問題です。今まで、CO2は無料で排出できるものでした。CCSについても、将来はビジネスにしていくことと考えると、価格がつかなければなりません。
それがまさにカーボンプライシングですが、なかなか見えてこないのが現状です。会社としては、CO2の問題を大きく2つのフェーズに分けて考えていきたいと思っています。
1つ目は、自分が排出したCO2を自分で処理をすることです。イクシスLNGプロジェクトやアバディLNGプロジェクト、長岡鉱場など、自分で排出したCO2はできるだけ埋めていきます。これは、天然ガスや石油のビジネスを行っている人間にとっては社会的な責務だと思います。
「License to Operate」という言葉がありますが、これはまさにオペレートしていく上でのライセンスに相当するものです。これらは、基本的にはコストの問題というよりも、進めていかなければならない課題であると思います。
規制もありますが、すでにボナパルトCCSに向けた井戸の掘削作業もありますし、アバディLNGプロジェクトでも、生産開始時点からCCSを導入していくとお伝えしています。これらは、天然ガスの生産者としての基本的な役割だと思っています。
2つ目は、首都圏CCS事業に代表されるような、CCSによって他社のCO2の処理を行うビジネスがあります。首都圏や秋田県のCCSでブルー水素やブルーアンモニアを販売しているのも、こちらに属すると思います。
今までは無料で排出したものに一定のコストをかけていくことになるため、当然ながらコストに見合うメリットが必要です。言い換えれば「CCSはいくらかかるのか?」という議論の中でさまざまな試算があり、当社も首都圏CCS事業を含めて試算しています。
日本でCCSを行う場合、CO2を回収し、運ぶ必要があります。首都圏CCS事業ではパイプラインを使用して運びますが、多くの場合は船で運び、最終的に地下に埋めるというのがCCSのファンクションです。
プロジェクトや規模によって異なりますが、日本で1トンのCO2を地下に埋めるためのトータルのコストは、およそ2万円から3万5,000円かかります。
では、誰がコストを払うのでしょうか? 鉄鋼メーカーや化学メーカーが払ってくれるのかが、まさにカーボンプライシングの問題になっています。
例えば、鉄鋼産業でCCSを使いたいかと言うと、CO2を排出して、それの処理コストが2万円や3万円だと仮定した場合、それがカーボンプライスよりも安ければ、当然ながら企業は排出することを選びます。
仮にカーボンプライシングが2万円から3万5,000円を超えれば、みなさまが排出を選ぶとその分のお金を払わなければならなくなることから、CCSを使うことになります。
カーボンプライシングは代表例であり、同じことがブルー水素やブルーアンモニアにも当てはまります。
実はオーストラリアにはセーフガードメカニズムという規制があり、事業者はある年限まで毎年4.9パーセントずつCO2を削減していくことが義務付けられています。規定値以上のCO2を排出した場合、オーストラリアのCO2クレジットである「ACCU」を買うことになります。
ここに、カーボンプライシングやCO2削減の規制の仕組みや補助金などを組み合わせても良いと思います。全体として、CO2を削減するという市場システムを完成させることが、ビジネス化していく上では大前提になると思います。
「プランBはどうするのか?」「補助金がもらえなければどうするのか?」という話がありました。さまざまなかたちでコストダウンなどについても考えなければなりませんが、このような市場メカニズムが存在しない中でビジネスを展開することは、事実上ほとんど不可能に近いと思っています。
現在、柏崎市で進めている水素の実証化プロジェクトにおいて、当社は勉強のための研究開発費としてコストを負担しています。社会システムとして作り上げるためには、数千億円から場合によっては1兆円を超えるお金がかかります。こちらについては、おそらく社会システムが出来上がることが必要です。
要するに、パッケージでプロジェクトを推進していくことになると思っています。現状では、先ほどお伝えしたように、首都圏CCS事業のFEEDにかかる費用を含め、基本的には国が全額を負担するかたちになっています。
このプロジェクトが、後のEPCやコンストラクションのフェーズに入っていくと考えられます。社会的なシステムがなければ、FIDに到達することは難しくなると思いますので、政府にも努力していただくことになるかと思います。
社会システムの整備の状況を睨み、経済的に成り立たないプロジェクトは民間企業としてはできないことから、経済性を踏まえながらプロジェクトを推進していくことになると思います。
滝本俊明氏:飴と鞭の政策が必要だといわれています。シングルプライスになるかはわかりませんが、脱炭素にはコストがかかるというコンセンサスを醸成した上で、カーボンプライスと政府からの補助を両立させる必要があります。
世の中のエネルギーを低炭素化していくことは、現実的な路線です。プロジェクトの経済性を評価する上でも、規制がない国ではインターナルカーボンプライスを設定し、脱炭素を進めてもプロジェクトがきちんと経済的に成立することを確認しながら、新規事業や既存事業を進めているのが現状です。
質問者:社長から「化石事業者として行わなければいけない」という発言があったと思います。ボナパルトCCSの収益性やアバディは別かもしれませんが、化石燃料に随伴するCO2を削減する際、またはCCSを実施する際も、日本とオーストラリアで違うかもしれませんが、2万円から3万円ほどかかると。
御社としては、ガスを生産して販売する以上、コストとしてある程度持ち出しにならざるを得ないという判断になるのでしょうか? あとからどのような補助がついてくるかによって変わるかもしれませんが、厳しいことを言えば、LNGやガスの生産は難しくなることも、経済環境によってはありえるのでしょうか?
上田:オーストラリアにおいては、先ほどお伝えしたとおり、セーフガードメカニズムという環境規制がすでに存在しています。当社だけでなく、すべてのLNG事業者や排出者には、毎年CO2排出量を4.9パーセントずつ削減する義務が課されています。
この値を超えた場合、オーストラリア市場で流通しているACCUというCO2のクレジットを買わなければなりません。CCSを実施すれば、おそらく4.9パーセントの削減に対応できると思いますが、実施しなければ、数100万トンものCO2排出に伴うACCUを購入する必要があります。
オーストラリアでは、おそらくCCSを行うほうがACCUを買い続けることに比べて経済的に合理的だと思われます。また、社会的なレピュテーションの問題からも、「クレジットを買っているだけだ」という批判が想定されるため、当社としては基本的にCCSを行いたいと思います。
しかし、コストがかかることは間違いありません。日本ほどはかからないと思いますが、それでもそれなりの費用がかかるため、果たして国際市場で正当に評価されるかどうか、あるいはオーストラリア政府が補助を提供するかどうかが問題だと思います。
現状では、オーストラリア政府はCCSをストラテジーの中で推進していますが、財政的な補助などの支援までは行っていません。CCSによってCO2を埋めた天然ガスやLNGが、CCSを行っていないものより高価なものとして国際市場で取引されるものであるかは、非常に不透明です。
国際的なシングルプライシングのようなことができれば、どちらで排出・削減しても、おそらくコストが発生します。この問題は、国際的に調和されたマーケットの中で解決されるはずだと思いますが、現状ではそのようなシステムが存在していません。
果たして、オーストラリアにおける事業者のコスト負担になるのか、補助金で軽減されるのか、あるいは国際市場で低炭素LNGが評価され、やや高めのプライシングになるのかは、今後の仕組み、あるいは国際的な議論の進展によると思います。
大川人史氏:オーストラリアの事情について補足すると、イクシスLNGプロジェクトの生産を続けるためには、CO2を出しっぱなしにするわけにはいきません。先ほどもお伝えしたとおり、ステークホルダーや関係者からサポートを得る必要があります。
生産を続けるためには、しっかりとCO2対策をしていなければならないということから、採算が合う・合わないは別として、まずはCCSに取り組まざるを得ません。こちらが1点目です。
しかし慈善事業ではないため、どのように事業化できるかについてが、次のポイントになります。
先ほどお話ししたように、我々は600万トンのCO2を排出しています。それでは600万トンの経済性は成り立つのかというと、施設の処理能力を1,000万トンにしなければならない場合、他の需要家からCO2を持ってこなければなりません。
そのような中で、法的な整備がまだ進んでいないところがあり、いずれにしても国と国とのバイラテラルアグリーメントが必要になります。要するに、他国からCO2を持ち込むためには、アグリーメントが必要だということです。
豪州の場合、グリーンが非常に強いことを考えると、他国からCO2を持ってくることに対して一定の反対票が投じられるだろうと思います。ただし、これは大事な点ですが、CO2を排出する国と、CO2の問題に対する解決策を提供する国が出てくることになります。
我々はまさに「オーストラリアがCO2の解決策を世界に提供していくんだ」という大きな枠組みのもとで考えてもらうという戦略で、豪州政府と話をしています。
質疑応答:LNGの需給関係および営業キャッシュフローの使用配分について
質問者:2点おうかがいします。1点目は、御社の2大プロジェクトである既存事業のイクシスLNGプロジェクトと、将来のアバディLNGプロジェクトについてです。グローバルなLNGの需給関係を踏まえ、中長期的な視点でどのように見ているのか聞かせてください。
一般的には、2020年代後半にカタールやアメリカのLNGが出てきた場合、一時的に需給が緩むだろうともいわれています。イクシスに関してはバイヤーと価格更改にあたることになると思いますが、どのくらいの周期で行うかは別として、バイヤーとの見直し上で御社が不利になることはないのでしょうか? また、そのあたりのリスクをどう受け止めていますか?
新規LNGであるアバディは、マーケティングの時期がずれているため、そこまで心配しなくてもよいのでしょうか? まずはこのあたりをお聞かせください。
2点目は、先ほどイクシスにフォーカスしたキャッシュフローについて質問しましたが、今度は会社全体についてお聞かせください。
油価や為替等の代表的な市況は一定だとする場合、今後5年ほどの御社の営業キャッシュフローの創出力は大きく変わらないと考えてよいでしょうか?
もしくは、PRRTやコストを考えると、リスク要因を見たほうがよいのでしょうか? あるいは、ほかのプロジェクトの生産量が貢献してアップサイドが見込めるなど、営業キャッシュフローのトレンドをどのように見ているのかお聞かせください。
さらに、営業キャッシュフローをどのように使うかについても質問です。有利子負債の返済がかなり進んでいるため、以前の説明会でお話があったとおり、2月の次期中期経営計画では成長投資と株主にどのように配分するのかが重要な論点になると思っています。
具体的なことはまだこれからだと思いますが、現時点でのキャッシュインの創出能力と配分に関するお考えをお聞かせいただけますでしょうか?
上田:2つのご質問のうち、LNGに関する質問について私から回答します。キャッシュフローに関しては、まずは山田から見通しについて少しお話してもらい、その後、私から今後の考えをお話ししたいと思います。
中長期的なLNGの需給をどのように見るかについては、さまざまな議論があると思います。多くのマーケットの識者が言っているのは、2025年から2030年頃まではカタールをはじめとしたいくつかの新規LNGプロジェクトが立ち上がり、需給バランスがやや供給サイドに寄るため、価格的にそれほど高くないだろうということです。
一方で、2030年代を超えると需給バランスは非常にタイトになるという見通しが一般的であり、私どもの見方もそちらに近いです。
ただし、最近わかってきたこととして、やはりトランジションは簡単なものではなく、しばらくは天然ガスやLNGが中核的な役割を果たし、その期間は延びるだろうと思われます。したがって、天然ガスの需要は私どもの想定以上に安定していくだろうと見ています。
ご存知のとおり、アバディの生産開始は早くとも2030年頃であることから、2030年代以降の市場環境の予測をベースに、マーケティングに関するさまざまな議論を行っています。
その中では、先ほど渡邉がご説明したように、現在の契約はノンバインディングですが、私どもが予想する供給量を超える規模のご希望をいただき、そちらではMOUを締結していると思います。
来年以降、アバディLNGプロジェクトにおいてFEED作業を行います。現在ノンバインディングな契約をバインディングな長期契約に変えていくことが必要になるため、その過程で価格も決まることになると思います。
いずれにしても、2030年代以降のLNGの需給については、ヨーロッパはお話ししたとおりの状況であることからある程度の需給が見込まれるとともに、特にアジアを中心に大幅に伸びるだろうと見ています。
このようなLNGの需給バランスを考えると、実際にアバディが商業プロジェクトとして成功する余地は十分にあると思っています。また、現在のマーケットとの話し合いの過程を踏まえても同様であると理解しています。
山田大介氏(以下、山田):営業キャッシュフローについて回答します。
8月に通期の見通しを出した際、為替は1ドル147円から148円、油価1バレル80ドル程度という前提で、営業キャッシュフローの水準は9,000億円程度と見ていました。
次の中期経営計画期間のうち、アバディが動き出す前の今後数年先のイメージは、為替と油価によってずいぶん変わりますが、仮に為替135円、油価70ドルとした場合、年間の営業キャッシュフローは7,000億円強だと思います。
上下それぞれに要因がありますが、先ほど大川がご説明したとおり、豪州でPRRTがあると、税負担が増えてマイナスに引っ張られます。一方で、アブダビの増産がプラス要因となってマイナスを打ち消すことから、7,000億円程度でステーブルだと考えています。
その後は投資キャッシュフローが増えながら、2030年以降にアバディが始まった際には、営業キャッシュフローでコンペンセートしていくようなイメージです。
お金の使い方は、以前ご説明したとおりです。もはや借金を返すというステージではなく、アバディに至るまでにいかに投資するか、あるいはいかに還元を充実させるかを考えています。
詳細は2025年2月の新しい中期経営計画の際に、またみなさまと議論したいと考えています。
質疑応答:投資環境および脱炭素社会の実現に向けた追加の支援について
質問者:2点質問です。1点目は、先ほどキャッシュフローについて「いかに投資するか」というお話がありました。現在はイクシス周辺に積極的に投資しているかと思いますが、それ以外の御社の集中エリア内の投資はどのような状況でしょうか? 進めやすい環境なのか、投資環境について教えてください。
2つ目は、脱炭素社会実現への挑戦についてです。いろいろとご説明いただき、政府のサポートをそれなりに受けているかと思いますが、さらに必要なサポートがあるとすればどのようなものでしょうか?
上田:「いかに投資するか」「その投資環境はどうか」というご質問についてです。
我々は、コアエリアを5つ指定しています。イクシスとアバディは先ほどお伝えしたとおりですが、それ以外のコアエリアにおいても、選択と集中を続けていくという基本的な考えを維持していきます。
その中で、例えばアブダビにおいては、UAE政府全体が2027年頃までに現在の400万BDから500万BDへと生産量を増やす計画を持っています。私どもはアブダビにおいて、Total社に次ぐ主要な外国投資家として、石油天然ガスの増産計画に協力し、積極的な投資を行っていきます。
我々の保有する鉱区には、下部ザク厶油田、上部ザク厶油田、最近新規に取得したBlock4等があります。Block4についても、石油・天然ガスが商業的な生産に結びつくような発見ができたと思っています。
現在はアブダビの国営石油会社ADNOCとともに、商業生産をどのように進めるかという議論を進めています。このように、アブダビというコアエリアにおいては、石油・天然ガスのほか、新規のものも含めて必要であれば投資し、増産を行って利益に貢献してもらうつもりで取り組んでいます。
アバディ以外では、例えば東南アジアのマレーシアで取得した鉱区が探鉱段階にあります。欧州のノルウェーでも探鉱鉱区を取得するなど、さまざまな活動を実施しているところです。
また、ネットゼロの分野においては、アメリカのヒューストンでのシップチャンネルプロジェクトや、アブダビでの新たなプロジェクトなど、さまざまな話を進めていこうと思っています。
投資環境の良し悪しを一言でお伝えすることはなかなか難しいのですが、私自身、会社の戦略という観点からも、天然ガスを中心としていくこと、そしてできるだけローカーボンの天然ガスにするということを、利益やキャッシュフローの観点では中心に置かざるを得ません。
したがって、水素・CCS等についても、世の中の環境がきちんと整備されれば、これらは立派なビジネスに成長する可能性が十分あると思っています。そのため、そのようなところに向けた準備をしていこうと考えています。
加賀野井彰一氏:「脱炭素における政府のサポートで、更に必要なものはありますか?」というご質問について、実は、政府においてさらに2つほどあると思っています。
1つ目は、先ほどご説明したとおり、まずは費用の支援が出てくるところです。もう1つ政府にお願いしたいのは、「このような新しいことがよいことなのだ」という、いわゆるパブリックアクセプタンスです。
例えば、A県からB県にCO2を持っていった際、B県で「なぜA県のCO2を受け入れなくてはならないのか?」という議論になると、まったく話が進まなくなってしまいます。
我々もいろいろな場で繰り返し発信するようにしていますが、政府からも「日本として本気で新しい水素、アンモニア、CCSに取り組んでいくんだ」と発信し、国民のみなさまの理解を得る活動をお願いしたいと思います。
お金を出すのは政府かもしれませんが、「おらが町」「おらが県」というところでは、当然ながらメリットが出てくる地方自治体もあると思います。
例えば、CO2のパイプラインが我が町を通ると決まった際、極端な話ですが、そのパイプラインに蛇口がついていて、CO2がいつでも入れられる環境であれば、CO2をすぐに出せる土地を探している工場を持ってくることもできると思います。
地方自治体には、そのような自分たちの発展も視野に入れつつ、さらにこれが将来の自分たち、県、国として行っていかなければいけないことだと捉え、お金がなくても、そのようなリーダーシップを発揮することをぜひお願いしたいと思います。
また、人任せではありませんが、水素・アンモニアはLNGに似ているサプライチェーンになります。さらに、CCSはCO2を集めてそれを貯留地に持っていく、いわゆる逆方向のサプライチェーンになるため、いくら当社が「うちは水素を作ります」「うちはCO2をいっぱい埋めます」と言っても、それだけではビジネスとして成り立ちません。
したがって、このサプライチェーンを作っていくところで、支援という言い方ではありませんが、そこに関わる企業との連携を確実に行っていく必要があると考えています。
質疑応答:アバディLNGプロジェクトの状況とトランジションボンドの発行について
質問者:2点質問です。1点目は、アバディLNGプロジェクトについてです。イクシスLNGプロジェクトのFIDをした時と比べると、アバディではコントラクターの選択肢は会社数を含めて少なくなっていると理解しています。
また、現在LNG関連を行う会社も、コンティンジェンシーが相当高いものを求めてくると思いますが、この状況についてどのようにお考えでしょうか?
先ほど「コストあるいは投資が超過した場合にはインドネシア政府の支援も求める」というお話がありましたが、このようなところで考えるのか、それともLNGのコントラクターマーケットにもう少し違う見通しを持たれているのか、このあたりについて教えてください。
2点目は、先ほどからトランジションというお話が出ていますが、御社はグリーンボンド、あるいはトランジションボンドについてどのように考えているのか教えてください。
確か御社は2021年にグリーンボンドを発行していますが、それ以降、大きなグリーンファイナンスはされていないと思います。
CCS・水素およびLNGもトランジションエナジーとして重要であれば、有利子負債の水準はともかく、象徴的に世に訴えるためにも、トランジションボンドを出してみてもよいのではないかと思いますが、どのようにお考えでしょうか?
こちらについては日本の官民学や金融を合わせて比較的支援していることから、御社がそこに参加されると非常に興味深いと思います。このあたりについてお考えがあれば、教えてください。
上田:1点目のアバディLNGプロジェクトについては、現在我々が非常に苦労しているところです。こちらは、渡邉からご説明します。2点目のグリーンボンドについては、山田からご説明します。
渡邉章弘氏:アバディのコントラクター、入札環境についてご説明したいと思います。
上田からも少し言及がありましたが、現在はここについて非常に頭を悩ませている、まさに私がかなりの時間を使っている問題であると思います。
良いことでも悪いことでもあるかもしれませんが、いわゆるエンジニアリング会社やコントラクターの市場は非常にタイトになっており、その上さまざまなプロジェクトがグローバルに行われているため、彼らの受注残高も非常に高くなっているような現状だと認識しています。
この中で、「最終的にはそのコストがいくらになっても、インドネシア政府と議論をすればよい」と先ほどご説明しましたが、それだけで良いとは決して思っていません。
基本的なところで、プロジェクトの競争力を維持することが非常に重要だと考えており、なるべくコストをマネージして経済性を高めた上で、ラストリゾートとしてインドネシア政府と議論することだと考えています。
まさに先ほどご質問いただいた市場環境だと認識しているため、このような中でFEEDあるいはその次のEPCの入札をどのように行うか、また、そのFIDにどのようにたどり着くかについて、日々頭を悩ませているのが現状です。
基本的に我々の範囲でできることには限界があり、コントラクターやエンジニアリング会社がどのように見ているかは、最終的に彼らの判断だと思います。
私どもとしてできることは、アバディLNGプロジェクトを受注することが彼らにとっていかに魅力的なものであるかを示すこと、そのアトラクティブネスを高めることです。そのために、どのようなことが必要か考えています。
コントラクターから見ても、インドネシア東部のリモートエリアでEPCの作業を引き受けることは非常に大きな負担となることを、私どもも認識しています。
そのような中で、発注者側、受注者側、そしてインドネシア政府との間でどのようにリスクをシェアしていくかを考えなければいけません。
今までのインドネシアでは、伝統的にランプサム方式ですべてコントラクターに引き受けていただくことが基本的なEPCの発想でした。しかし、そのような考え方では、「アバディの仕事を引き受けたい」と言っていただける方はなかなかいないものです。
そのような中で、アバディLNGプロジェクトはどうしてもコスト回収という枠組みのため、私どもとして取れるリスク、コントラクターのほうで引き受けていただくリスク、そしてインドネシア政府で取っていただくリスクは何なのかということで、最終的にはインドネシア政府にどれだけコストをリインバースしていただけるかも重要な点になります。
このような3者の中での適正なリスクの取り扱い方やコストの支払い方を、どのように変えていけばよいのかについて考えています。当然ながら、私どもも経済性を維持したいですし、コストがどんどん大きくなっていくのは困ります。
そのような中で、費用の支払い方や、今までインドネシアではあまり使われてこなかったいろいろな枠組みも含め、少し知恵を絞って契約を作り込んでいくことで、多くのEPCコントラクターに興味をもって入札に参加していただき、コンペティティブな入札を実施していくことが課題だと認識しています。
今「このようにします」とお答えすることはできませんが、このようなところでコントラクターの会社やインドネシア政府と日々議論をしており、今日もこの後、インドネシア政府と議論する予定です。お答えになっていませんが、その問題についてはひしひしと感じており、多くの時間を使って真剣に取り組んでいるのが現状です。
上田:このとおり、現在マーケットには多くのプロジェクトがあり、EPCコントラクターが非常に強気な市場になっています。そのため、彼らにとっては嫌なプロジェクトやリスクが高いプロジェクトを受けなくてもよい状況だと思います。
このような市場環境の下、リスクが高くリモートエリアに位置するアバディLNGプロジェクトをどのように進めていくかということです。さまざまなコントラクターから「インドネシアの仕組みはここがおかしい」というご指摘もいただいているため、このあたりを上手に調整することは、私たちにとって重要です。
例えば、ローカルコンテントの比率をどのように調整していくかということです。コントラクターからすれば「このようなものはどこで作ってもよいではないか」「私の作りたいとこで作らせてくれ」と言います。一方でインドネシア側は「そうは言っても、インドネシアの成長のためには一定のローカルコンテントが必要だ」と言います。このような議論は、どの国にもあると思います。
このようなポイントをどのように処理していくのかが、1つの知恵の絞りどころだと思います。正直に言えば、この部分で苦労している実態があります。
山田:2点目は、グリーンボンドとトランジションボンドに関するご質問かと思います。
少し前にグリーンボンドを出して以来、ご無沙汰しています。グリーンボンドとトランジションボンドについてはデイリーでマーケットを追っているわけではありませんが、以前に発行した際の感じと、現在なんとなく思っていることをお話しします。
発行後のフォローアップが比較的多いわりに、必ずしも特別利回りが良いというわけではないため、グリーンボンドを発行する意味は何なのか、こちらについてはよく考えていこうと思っています。
当然ながら、アセットサイドでグリーン、ライアビリティサイドもグリーンであることは、1粒で2度アピールできるため、魅力はあると思います。しかし、デットを調達する上で重要なのは、やはりボリュームと期間です。また、金利を考えると、実は投資家の方々もグリーンだからといってなにか特別に優遇した金利でオファーしてくれたり、あるいは期間が長くなったりすることもないようです。
トータルで考えると、今後はアバディも含めてデットサイドでの調達が必要になってくることから、我が社のポートフォリオに一番合ったかたちで調達戦略を考えるということです。
当然ながら、グリーンボンドを発行しないわけではなく、我が社はこれまでずいぶんと再生エネルギー等に投資してきており、エリジビリティのある投資案件が多くあることから、グリーンボンドを調達することは可能だと思います。
総合的に判断しながら、グリーンボンドなのか、普通のストレートボンドなのかについて考えていきたいと思います。
質疑応答:今後の株主還元と次期中期経営計画に関する議論の内容について
質問者:先ほど、中期的なキャッシュフローの見通しに関する質問で山田さまから「還元をいかに充実させるか」という言及がありました。
このご発言に対し、次期中期経営計画の詳細は2月以降の発表ということですが、現在、次期中期経営計画に向けてどのような議論がなされているか教えてください。
上田:そちらについては、もちろんさまざまな議論をしています。しかし、具体的にはまだどうしようかという段階です。
例えば、ご説明のとおり営業キャッシュフローが一定程度存在するとして、有利子負債の返済は必ずしもプライオリティではないところは、社内的でもほぼコンセンサスになっています。ここでは、この資金を還元に回していくのか、それとも成長投資に回していくのか、配分をどうするのかということです。
また、還元する場合、配当もあれば自社株もあるわけです。それらをどのような考え方で世の中に出していけばいいのか、みなさまからは例えば「キャッシュフローベースにすべき」「自社株買いを多くやるべき」など、さまざまなアイデアや議論をいただいています。
このような議論をこなしながら、当社としてどのような方向感があるかについて議論しています。今はあまりはっきりしたことは言えませんし、お伝えすることは適当でないと思うため、今日のところはこれぐらいにしたいと思います。
ただし、還元に関して言えばご存知のとおり、8月の発表の際、私どもはそれなりに思い切った還元を行いました。配当で言えば、1株当たり86円です。さらに、自社株を追加で800億円としたので合計で1,300億円、総額約2,300億円の還元を行いました。これは当社の実力、キャッシュフロー、利益等を勘案した上で、十分まかなえる水準です。
また、投資家の方々の期待にもある程度応えることができたと思っています。その後は環境が悪く株価下がるなど、やや残念ではありますが、今まで行ってきたこれらの配当あるいは還元に関する基本的な考え方は、中期計画においても引き継いでいこうと思っています。
「中期経営計画があがってきたが、還元がものすごく落ちた」など、そのようなことにならないよう、投資家のみなさまのご期待を踏まえ新しい還元政策をご提示したいという思いで議論を行っているところです。