第52回 個人投資家向けIRセミナー Zoom ウェビナー
望月靖和氏(以下、望月):こんにちは。本日はお忙しいところ、島津製作所のIRセミナーをご視聴いただきましてありがとうございます。島津製作所の望月と申します。今回、約1年ぶりの参加となりました。このIRセミナーを通じて、少しでも島津製作所の理解を深めていただければうれしく思います。
会社概要
望月:会社概要です。私たちの会社は「名前は知っているものの、なにをしている会社かよくわからない」と言われることが多いです。コロナ禍でダメージを受ける会社が多い中で当社の業績は堅調に推移しており、ヘルスケア市場という成長分野に力を入れて、3期連続となる過去最高業績の更新を目指しています。
2022年度の売上高は4,282億円、従業員数はグループ全体で13,499人です。社是は「科学技術で社会に貢献する」で、科学技術とあるとおり当社は技術力に定評があります。経営理念は「『人と地球の健康』への願いを実現する」です。
当社は、明治8年に仏具職人であった創業者・島津源蔵が、仏具の製造で培った技術を活かして京都市内で教育向けの理化学機器を製造したところからスタートしています。京都市は歴史と伝統の町といわれますが、京セラ・オムロン・任天堂・日本電産・村田製作所などグローバルに活躍する企業が多数あります。これらの会社と当社をあわせ、京都銘柄として投資家間で注目されています。
歴史 事業の変遷
望月:創業者である初代源蔵の後を継いだのが、その息子の二代島津源蔵です。二代島津源蔵は日本のエジソンと呼ばれ、さまざまな発明をしました。一方で、常々「科学は実学である。人の役に立たなければ、理論だけ知っていても意味がない」と言っており、開発した技術を実用化して理化学機器の会社から事業を大きく拡大させた立役者でもあります。
例えば、国産初の医療用X線装置の開発、今ではEVやスマートフォンに欠かせないバッテリー、昔の蓄電池の製造を始めたのは島津製作所です。バッテリーの事業はその後の日本電池、現在のジーエス・ユアサコーポレーションへと発展を遂げています。ちなみにこのジーエス(GS)は、Genzou Shimadzuのイニシャルから来ています。
これらの開発が計測機器・医用機器・航空機器・産業機器の4つのセグメントへとつながっており、2023年で創業148年目です。
148年にわたる事業継続の要因
望月:長きにわたり事業が継続してきた理由を振り返ります。島津製作所は時代が変わっても「科学技術で社会に貢献する」の社是に忠実に行動し、事業を通じてあらゆる分野でさまざまなお客さまからの要請に応えてきました。加えて、産業の進歩・発展に対応して技術力を追求し、その時代のニーズに応じた製品やサービスを提供してきました。
例えば、高度経済成長時代に石油化学産業を支えた、国産初のガスクロマトグラフの開発や、令和のコロナ禍においてはPCRの検査試薬や全自動PCR検査装置の開発など、感染症対策に取り組んできました。
このように、時代の流れの中で社会課題の解決のための技術力を追求したからこそ、社会に必要とされ、世の中とともに成長を遂げることができたと考えています。
技術の高みへ
望月:私たちは創業以来、顧客課題・社会課題の解決のための技術を磨いてきました。その技術の一例としてご紹介したいのが、2002年に当社の社員である田中耕一が世界で初めてタンパク質をイオン化することに成功し、ノーベル化学賞を受賞したことです。
この技術によって質量分析計でタンパク質を研究する道が開かれ、その後の技術の発展により、今では病気の診断や薬の開発に不可欠な技術となっています。後でご説明しますが、この技術が活用された分析機器がアルツハイマー病の超早期検査に用いられています。
スライド右側の写真の冷蔵庫のようなものが質量分析計で、当社は現在この質量分析計を活用した病気の早期診断に取り組んでいます。病院や臨床向けの分析機器の市場は、2030年に日本円で2兆円を超えるぐらいにまで成長するといわれており、非常に成長が期待される、こちらの分野に力を入れていきたいと考えています。
グローバル事業展開
望月:歴史とともに歩んできた島津製作所ですが、実は世界25ヶ国に拠点を設けており、グローバルで活躍しています。売上の約半分は海外の売上高です。
研究開発体制
望月:研究開発体制についてお話しします。当社はもの作りの会社ですので、研究開発には非常に力を入れています。スライド右下のSHIMADZU みらい共創ラボでは、10年から20年先の要素技術として、脳の研究やAI・バイオのような先進的な技術を開発しています。
これらの技術を製品やサービスに転化するのが、本社にあるヘルスケアR&Dセンターです。
ただし、お客さまごとや地域・国別に用途が違うため、製品を発売しただけでは世の中に広まりません。そのため、主力の計測機器事業ではアプリケーションの開発にも力を入れています。アプリケーションとはお客さまが求める最適なデータを取得するための手法で、ソフトウェア、試薬や機器の組み合わせ、分析手法などのことです。日本を含む世界5ヶ所に開発センターを設けて地域のニーズを汲み取りながら開発しています。
売上高・営業利益推移
望月:コロナ禍においても業績は順調です。2021年度は初めて売上高4,000億円、営業利益600億円を突破し、2022年度も過去最高の業績を目標としています。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):業績について、コロナ禍でも売上をそれほど落とさず成長してきています。御社は医療分野もありますので、新型コロナウイルス感染症関連の売上がどのぐらいあるのか教えてください。
望月:代表的なものとしてPCRの検査試薬と全自動PCR検査装置があり、2021年度のこれらの売上高は100億円強でした。2022年度の同関連分野での売上高は90億円弱を見込んでおり、そのうちの9割がPCRの検査試薬です。ただし、最近の新型コロナウイルスの感染状況を見ると、PCRの検査試薬は今後大幅に減ると見込んでいます。
坂本:直近の決算の状況を教えてください。
望月:直近の決算は、中国のコロナ感染や半導体をはじめとする部品・部材不足の影響を受けました。しかし、先ほどお話ししたPCRの検査試薬の売上が大きく伸びたことと、為替の影響およびM&Aによって業績が上がったため、直近の第3四半期の業績は過去最高で着地しています。
坂本:中国の為替についてのお話と、御社の売上の半数以上は海外とのお話がありました。ざっくりとした為替の感応度を教えてください。
望月:為替は米ドルとユーロで、1ドル円安に振れると売上への影響が12億円、利益は4億円、1ユーロは売上にして2億円、利益は7,000万円という感応度です。
4つの事業セグメント
望月:事業概要についてお話しします。当社の事業は大きく分けて計測機器・医用機器・産業機器・航空機器の4つの事業セグメントに分かれています。スライド中央のグラフが各セグメントの構成を示しており、売上高の6割強、利益の8割が主力の計測機器事業です。
計測機器事業①
望月:主力事業である計測機器事業についてお話しします。計測機器事業は、見えないものをみる(見る・観る・診る)、測る機器を展開しています。主にヘルスケア、マテリアル、環境エネルギーなどの分野で当社の製品が活躍しています。
主に企業の研究開発部門、大学や研究機関の研究室、工場の品質管理のようなフェーズで当社の製品が活躍しています。また、コロナ禍においてはPCRの試薬や全自動PCR検査装置を開発し、感染症対策にも取り組んできました。
スライドの写真のようにあまり見慣れないものが多いのですが、実は最近まで当社の機器がテレビに出ていました。みなさま『科捜研の女』という番組を見たことがありますか? 沢口靖子さんが演じる科学捜査研究所の研究員が、科学技術を使って難事件を解決するドラマです。
実際に日本の警察の科捜研にも当社の機器が導入されており、例えば毛髪や尿に毒物や危険なドラッグが含まれていないかなどを調べるのに当社の機器が役立っています。
計測機器事業②
望月:もう少し身近なものを例にとってお話しします。みなさまがよく飲むペットボトルのお茶は、水と茶葉と容器でできています。
計測機器事業③
望月:このペットボトルのお茶を作る際に非常にたくさんのチェック項目があります。例えば水に不純物が混じっていないか、茶葉に農薬が残っていないか、お茶にきちんと旨味成分があっておいしくできているか、もっと薄くて軽くて丈夫な容器ができないかなどです。これらの項目を調べるのに当社の機器が活躍しています。
坂本:主力の計測事業はこのようなかたちでいろいろな用途に使えて、深掘りや分析ができるとのことでした。最近の用途の広がりについて例があれば教えてください。
望月:計測機器は、従来は製薬会社向けのものが多く出ていました。最近ではコロナ禍がきっかけで人の安心・安全に対する意識が非常に高まっており、食品安全や臨床などの分野で分析機器が多数用いられています。そのような意味で裾野が広がってきたと感じています。
例えば、インドからヨーロッパに輸出されるゴマに有害な物質が混じっていたことがあり、ヨーロッパの規制強化によってこちらの分析需要が高まっています。また、アメリカでは環境規制が強化され、水質分析向けの需要が高まりました。
計測機器事業④
望月:お茶を作った後の排水に問題がないかなどのモニタリング装置も当社の製品です。さらに、お茶を飲むと一般的に気持ちが落ち着くといわれていますが、これはお茶に含まれるテアニンという成分が脳をリラックスさせるからです。
このようなお茶に含まれる有効な成分の分析などにも当社の機器が活躍しています。ちなみに、テアニンは認知症の予防にも効果があると期待されており、「お~いお茶」で有名な伊藤園と一緒に認知症に関する研究を進めています。
計測機器事業⑤
望月:業績についてです。2021年度は売上高・営業利益ともに過去最高を更新し、今期も3期連続の過去最高更新を目指しています。地域別売上比率は国内が約4割、海外が約6割です。2022年度は海外基盤強化の目玉として、投資も含めて北米事業に注力しています。
市場を見ると、売上の約4割を占めている製薬・臨床・食品などのヘルスケア分野向け市場の拡大が非常に顕著となっています。みなさまの中には薬を飲んでいる方もいると思いますが、この薬を作るにあたって欠かせないのが我々の主力製品である液体クロマトグラフや質量分析計です。
このようなヘルスケア市場の需要拡大を背景に、主力製品である液体クロマトグラフや質量分析計を拡販します。あわせて収益性の高いサービス・メンテナンスといったアフターマーケット事業を拡大し、売上だけではなく利益も確保しながら業績を伸ばしていきたいと考えています。
坂本:国内外で売上を伸ばしているとのことですが、主力事業の計測事業にはどのような競合があるのか教えてください。
望月:競合は4社あり、すべてアメリカの企業です。具体的にはサーモフィッシャーサイエンティフィック、アジレント・テクノロジー、ウォーターズ、そしてダナハーの子会社であるSCIEXの米国4社となります。以上の競合と我々を含めた5社が、グローバルに戦っています。
医用機器事業
望月:医用機器事業についてお話しします。医用機器事業はX線画像機器を中心に製品を展開しています。みなさまも健康診断や人間ドックの際に機器を目にするため、多少身近に感じる方もいるかと思います。
骨折や肺炎の検査時の静止画撮影、バリウムを飲んだあとに胃の動きを見るX線テレビシステム、そしてカテーテル手術時にカテーテルの位置を確認する血管撮影システムといった製品を展開しています。
当社の機器は被爆量が少ないのですが、非常に鮮明な画像を撮ることができます。加えて、パワーアシスト機能がついており女性技師でも楽に扱うことができると好評です。さらに骨密度測定では、AIを用いて効率化を図るなど工夫を凝らしています。
医療現場での働き方改革が非常に大きな問題となる中で、当社は医療従事者の作業負荷軽減に貢献する製品を展開していきたいと考えています。
医用機器事業
望月:医用機器の業績についてです。2021年度の営業利益は過去最高を更新しました。地域別売上比率は国内が約6割、海外が約4割です。現在は北米市場の強化を進めており、新製品の投入や販売網の整備により拡販を図りたいと考えています。また、AIや画像処理などのソフトウェアをサブスクリプション展開し、売上だけでなく利益も確保していきたい考えです。
増井麻里子氏(以下、増井):利益率が上昇しているとのことですが、計測機器事業と比べると多少伸びが低いようです。事業環境も含めて、計測機器事業と同程度まで伸ばすことは可能でしょうか? また、アメリカに3社ある医用機器事業の競合についても教えてください。
望月:医用機器事業を計測機器事業並みにできるかについては多少難しいと考えています。コロナ禍で病院に対して各国政府から補助金や予算などがついて需要が拡大しましたが、新型コロナウイルス感染症の状況が落ち着いてきた最近はそのようなものがなくなり、通常運行になるのではないかと思っています。
我々もこれから利益率を上げていくことは大きな課題だと考えており、利益率の高いサービスやメンテナンスを回していくリカーリング事業の拡大を図らなくていけないと認識しています。具体的には、カスタマーセンターの強化や、リアルタイムでの故障状況の把握やリモートメンテナンスといった医用機器製品のIoT化により、リペアサービスの質を高めてリカーリング事業を拡大させ、利益率向上に貢献させる考えです。
産業機器事業
望月:産業機器事業です。主力のターボ分子ポンプと油圧機器についてお話しします。ターボ分子ポンプは高性能の真空ポンプで、主に半導体製造装置に組み込まれています。パソコンやスマートフォンには非常に多くの半導体が使われており、5G、AI、データセンター、EVなど、半導体需要が非常に伸びています。
ターボ分子ポンプはこれらの半導体を作るのに欠かせないため、近年売上が急上昇しました。ただし、足元では半導体需要にやや減速感が見られており、半導体製造装置向けのターボ分子ポンプの動きがやや緩やかになっています。
一方で、環境意識の高まりから環境性能の高いエコガラスや、太陽電池に膜を貼るといったコーティング向けが非常に伸びており、半導体製造装置向けの減少をコーティング向けが補っています。したがって、ターボ分子ポンプの売上高は大きく落ちることはないと見込んでいます。
油圧ギアポンプは主にフォークリフト、小型建機、農機の動力源です。コロナ禍により一時売上が減少しましたが、最近のネット通販拡大による各国での物流センター設置に伴ってフォークリフトが導入され、フォークリフト向けが増加しました。また、小型建機向けも堅調に推移しており、トータルで産業機器事業は期待できる事業だと考えています。
航空機器事業
望月:航空機器事業についてお話しします。こちらでは航空機用の装備品を製造しています。主に飛行機に搭載される空調システムやコックピットまわりのディスプレイシステム、翼を動かし制御するアクチュエータなどを展開しています。売上高の8割が自衛隊向け、2割が民間航空機向けです。
現在自衛隊で運用されている航空機やヘリコプターの約9割に当社の空調システムが採用されています。民間航空機向けはコロナ禍で深刻なダメージを受けましたが、最近は人の流れが活発になってきており、航空旅客需要が非常に増えています。足元では民間航空機向けの業績がコロナ禍前の2019年度を超える水準にまで回復しました。
現在、航空機器事業は選択と集中を進めており、売上の規模を追うのではなく、確実に利益を確保し黒字にしていくことに注力しています。
坂本:2022年から2023年にかけて防衛予算の倍増に関する報道が聞かれます。こちらの恩恵について、売上面は伸びると思いますが、利益面ではどのような影響があるのでしょうか? 増額によりすべてが増えるわけではないと思いますが、イメージを教えてください。
望月:おっしゃるとおり、我々にとって防衛予算の増額は追い風になると思います。しかし予算のすべてが我々に関係するものではなく、海外からの輸入航空機や、我々とは関係のないレーダーなどにも予算が割かれます。したがって、恩恵のすべてが我々に来るとは考えにくいです。
受注や売上が増えることは見込んでいますが、売上が上がっても利益率が跳ねあがることはないだろうと考えています。
坂本:売上と利益がスライドしていくようなかたちでしょうか?
望月:おっしゃるとおりです。
「すべての製品のエコ化」を推進
望月:ESGに関してお話しします。最近の投資トレンドとしてESGの観点は非常に重要なキーワードで、当社もESG活動に力を入れています。
まず「E」の環境についてです。私たちは製品を展開する際に、省電力やコンパクトといったエコな製品づくりに気を遣っています。このように環境に配慮した製品は、社内で「エコプロダクツPlus」と認定しています。
スライドの中央の折れ線グラフは、「エコプロダクツPlus」で排出を抑制できたCO2が島津グループが事業で排出するCO2を上回ったことを示しています。我々は2030年度までに製品売上高の約3割を「エコプロダクツPlus」するという目標を設定しており、今後はカーボンニュートラルや循環型社会の形成につながる製品を提供することでさらなる環境貢献に努めていきたい考えです。
坂本:世界全体でも脱炭素を推進しています。御社はエコな製品づくりを含めてESG活動を積極的に推進されているとのことですが、「エコプロダクツPlus」以外で進めている取り組みも含めて、御社の取り組みについてもう少し詳しく教えてください。
望月:我々の特徴としては、事業を通じて脱炭素に向けた取り組みを行っているところです。新しいエネルギーである水素やバイオ燃料の品質管理や、EV向けの軽く丈夫な素材の強度を測る試験機を提供しています。
最近の新しい取り組みにバイオファウンドリがあります。従来であれば石油から樹脂やプラスチックを作りますが、最近は微生物がCO2を食べ、微生物から物質を生成するという夢のような話に注目しています。
こちらは化石燃料由来ではなく生物由来で、CO2の削減が期待されています。このような生成物や微生物の培養条件の評価に当社の分析機器が活用されているのです。こちらについては神戸大学発のベンチャー企業とタッグを組み、研究を進めています。
事業における環境負荷低減「CO2排出量の削減」
望月:CO2排出量の削減についてお話しします。我々は2050年にCO2排出量を実質ゼロにする目標を設定しています。また、2017年度と比較して2030年度までに85パーセント削減、2040年度までに90パーセント削減を目標としています。
また、国際的な環境イニシアチブ「RE100」に加盟し、2050年度までに我々が使用するエネルギーをすべて再生可能エネルギーにすると宣言しています。
カーボンニュートラル実現への取り組み
望月:カーボンニュートラル実現への取り組みについてです。水素やバイオ燃料に不純物が混じっていないかを調べる際に当社の製品が貢献しているとお伝えしたように、水素、バイオ燃料、EV、EV向けの蓄電池、洋上風力発電において当社の製品が活躍しています。
現在はグリーントランスフォーメーション向けの投資が活発になっています。環境、いわゆるグリーン分野は今後の事業の柱として力を入れていく事業ですので、ぜひご注目ください。
アドバンストヘルスケア~認知症への取り組み~
望月:アドバンスト・ヘルスケアについてお話しします。アドバンスト・ヘルスケアは、健康やヘルスケアの分野で当社の分析技術や画像処理技術を使って数滴の血液から病気の検査・診断をできるようにしていく取り組みです。我々は、社会の大きな課題である認知症の原因疾患の1つであるアルツハイマー病の超早期検査に取り組んでいます。
アルツハイマー病は、脳内に原因物質のアミロイドベータがたまって起こる病気だといわれています。我々は血液の検査によって脳内のアミロイドベータの蓄積量を推定する分析手法を確立しました。これにより、誰もが気軽に検査を受けられるのではないかと考えています。
このようなものを人間ドックや健康診断のオプションとして組み込むなどして、アルツハイマー病の超早期検査が世の中に広まることを期待しています。こちらは現在研究開発段階です。
また、頭部や乳がんに特化した世界初のTOF-PET(トフペット)装置を開発しました。こちらは画像処理技術が非常に高く、アルツハイマー病の診断にも活用できます。
アドバンストヘルスケア~新たながん治療法 がん光免疫療法~
がん光免疫療法についてお話しします。こちらはがん細胞に集積する薬剤を注射して、がん細胞に近赤外線を当ててがん細胞を死滅させるという新しい治療法です。この治療法は、米国国立がん研究所の主任研究員・小林久隆先生が開発したものです。
一般的に知られているがんの手術や抗がん剤治療は、体に負担がかかったり副作用があったりといろいろな課題があります。一方で、がん光免疫療法はがんを退治する効果が高いだけでなく、副作用が少ない非常に画期的な治療法です。現在は研究開発段階ですが、この治療装置に当社の分析計測技術や画像処理技術が活用されています。
島津製作所は、国立がん研究センターなどとの共同研究を通じて、がん光免疫療法への取り組みを進めていきたいと考えています。
ダイバーシティ
ダイバーシティです。ダイバーシティは科学技術を生み出す源泉だと考えています。我々は2025年度の女性管理職比率を、島津製作所単体で6パーセント以上にする目標を設定しています。海外では比率が20パーセント程度となっているため、この数字に甘んじることなく徐々に比率を上げていきたいと考えています。
コーポレートガバナンス
コーポレートガバナンスです。2023年度は社外取締役が1名増え、取締役のメンバー8名中半数が社外取締役となりました。また、指名・報酬委員会の委員長を社外取締役が務めています。
株価推移
株式情報についてお話しします。株価の推移はスライドのとおりで、中期経営計画を経て堅調に推移していることがわかると思います。現在の中期経営計画が始まった時は1株2,845円でしたが、直近の3月20日時点では1株4,115円、今週の終値は3,985円でした。
株主還元
株主還元です。従来、研究開発など成長に向けた積極的な投資と、ステークホルダーのみなさまへの着実な還元を方針としています。2022年度は配当性向30パーセントに到達する予定で、配当は2021年度より2円増配の50円と9期連続の増配を予定しています。
坂本:株主還元や配当性向について、今後の目安があれば教えてください。
望月:配当性向についてはようやく30パーセントに到達するところで、最低でもこの30パーセントを維持したい考えです。これを1つの目安としています。
当社の目指す姿
望月:2023年3月22日に発表した、2023年4月から始まる新中期経営計画についてご説明します。
まず当社の目指す姿です。最近感じられる大きな変化として、コロナとの戦いをとおして「人の命と健康」への意識が高まってきたこと、また、気候変動が顕在化する中で「地球の健康」が非常に重要な社会課題になっていることが挙げられます。
当社にとってこのような変化は事業を成長させるきっかけと捉えています。経営理念に根差した「人の命と健康」への貢献、「地球の健康」への貢献、当社を支える「産業の発展、安心・安全な社会」への貢献をミッションとし、プラネタリーヘルス(人と地球の健康)を追求していきたい考えです。
これらのミッションを果たす領域を、ヘルスケア・グリーン・マテリアル・インダストリーと定めて事業展開し、当社の技術力と社会実装力の両輪で社会課題を解決して持続的に成長することが当社の目指す姿です。
フードテック向けトータルソリューション
具体的な取り組みの1つとして、フードテック向けトータルソリューションをご紹介します。こちらは、農産物や食品に含まれる機能的な成分の分析に当社の分析技術を活用していく取り組みです。現在農研機構と共同で取り組んでおり、今後は健康食品市場が拡大するASEAN諸国で事業展開を進めて業績を拡大していきたい考えです。
2025年度経営計画
新中期経営計画のスローガンを「世界のパートナーと共に社会課題を解決するイノベーティブカンパニーへ」としました。
中期経営計画最終年度の2025年度は売上高5,500億円を目指します。2021年度に初めて4,000億円を突破しましたが、新しい中期経営計画期間の3ヶ年で5,000億円の大台を突破したい考えです。営業利益は800億円、営業利益率は14.5パーセントを目標としています。
経営指標については、ROE12.5パーセント以上、ROIC11パーセント以上と設定しています。成長投資を進めるため、投資の効果を測る目的で今回ROICを導入しました。資本効率の向上に努めていきたいと考えています。
株主還元は配当性向30パーセント以上を維持し、株主のみなさまに着実に還元していきたい考えです。
非財務目標は、気候変動対策としてCO2自社排出量を2025年度に1万トン、2050年度は実質ゼロにする目標を設定しています。女性管理職比率は、2025年度に島津グループ全体で12パーセントを目指し、2030年度までに15パーセントに高めることを目標としています。
これらの目標をもとにサステナビリティ経営を進め、企業価値の向上を図っていきたいと考えています。
まとめ
本日のまとめです。当社の強みは研究開発力です。オンリーワン技術、No.1ソリューションを提供することで、ヘルスケア、グリーンイノベーションなどの成長分野で業績の拡大を図りたいと考えています。また、株主還元は9期連続の増配で、株主のみなさまにきちんと還元させていただきます。
新中期経営計画の最終年度である2025年度の目標値はスライドのとおりです。当社は2025年に創業150年を迎えます。創業200年に向かって、世界のパートナーとともに社会課題の解決に取り組み、人と地球の健康の実現に挑戦し続けたいと考えています。今後も大勢のみなさまに当社に興味を持っていただけたらうれしいです。
質疑応答:半導体の市況と半導体製造について
坂本:「御社の機器といえば半導体ですが、半導体の市況や現在の供給面はどうでしょうか?」「半導体の製造が盛んになることは御社のビジネスに関係があるのでしょうか?」というご質問です。熊本のTSMCの話を含めて教えてください。
望月:当社にも半導体不足の影響はあり、2022年12月までは生産の遅れなどが生じていました。対応として調達先を複数にしたり入手性の良いものに設計変更したりした結果、現在は半導体不足の影響は解消しています。したがって、2023年度は生産が遅れることなくきちんともの作りができると思っています。
また、半導体需要の伸びに関しては、産業機器事業のターボ分子ポンプが半導体製造装置に組み込まれるため、半導体の需要が伸びればターボ分子ポンプの売上も上昇するのではないかと期待しているところです。
質疑応答:M&Aについて
坂本:資本効率について「M&Aはお考えですか?」というご質問です。
望月:次期中期経営計画でも積極的に投資を進めていきたいため、当然M&Aも視野に入っています。M&Aをする場合は、当社の技術に足りないものや、M&Aでシナジーが生まれるものを考えています。
2022年11月に試薬を作る日水製薬を買収し、2023年度以降にそちらとのシナジーを狙っているところです。
質疑応答:150周年記念の配当や記念品の贈呈予定について
坂本:株主還元について「150周年記念の配当や記念品の贈呈の予定はありますか?」というご質問です。先の話でなかなか難しいですが、過去の例やイメージを教えていただければと思います。
望月:先の話のため特別配当があるかどうか明確にはお伝えできませんが、記念品はないと思います。ただし、株主還元に関しては、増配を続けてきたこの流れは止めたくないと考えています。先ほどお伝えしたように配当性向30パーセント以上を確実に維持し、着実にステークホルダーのみなさまに還元させていただくことをポリシーとしているとご理解ください。
坂本:会社の中でメモリアルの準備はあるのですか?
望月:当社は非常に長い歴史を持っているので、島津製作所の歴史のような冊子の作成や各種イベントを考えているところです。
質疑応答:新中期経営計画で注力する分野について
坂本:新中期経営計画で、どの分野に注力して売上や営業利益を伸ばしていくのか教えてください。
望月:主力の計測機器事業には引き続き注力していきます。最重要機種として液体クロマトグラフや質量分析計、ガスクロマトグラフがありますが、それに加えて、今後新素材の開発で需要が見込める試験機や、先ほどお話ししたターボ分子ポンプなどの製品力の強化を図ります。
また、グローバルの事業を拡大していき、特に最大・最先端である北米の製薬市場に注力したいと考えています。
臨床分野では、デジタル技術を活用して医用機器事業を強化し、メドテックといわれる質量分析計を活用した病気の検査・診断にも注力します。
このような取り組みを通じて分析機器の消耗品やサービス・メンテナンスなどの収益性の高いリカーリングビジネスを拡大することにより、売上高・営業利益ともに伸ばしていきたい考えです。
質疑応答:株式の保有状況について
増井:金融機関等が御社の株の約48パーセントを所有していることに理由はあるのでしょうか?
望月:当社の事業をご評価いただいて株式をお持ちいただけたものと思っています。
増井:持ち合いではないのですね?
望月:そのとおりです。
当日に寄せられたその他の質問と回答
当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。
<質問1>
質問:来期も増収増益の予定になっていますが、米国の本格的なリセッションとなった場合でも変わらないのでしょうか?
回答:主力の計測機器は、主に研究開発や品質管理の分野で使用されるため、一般的に景気の影響は受けにくいです。ただし、本格的なリセッションが米国のみならずグローバルに伝播し、リーマンショック級の景気後退に拡大した場合は、影響を受ける可能性は高いと考えます。
<質問2>
質問:今後5年で実用化されそうな技術について、あれば詳しく教えてください。
回答:実用化される技術、また、実用化したい技術は、分析技術の臨床展開です。具体的には血液検査によるアルツハイマー病の超早期検査です。がん治療における光免疫療法にも期待しています。
<質問3>
質問:昨今の物価高は御社にどのような影響をもたらしますか?
回答:営業利益を押し下げる等の影響を受けました。主な要因は、半導体をはじめとする電子部品の調達価格高騰です。当社は、入手性の高い部品への設計変更による調達価格の抑制や、生産効率の改善など、自社努力を継続しています。なお、想定を超える物価高になった場合は、販売価格の改定など、影響緩和に努めていきます。
<質問4>
質問:風力発電は耐用年数が短いと聞くのですが、耐用年数を延ばすことができる技術開発は可能ですか?
回答:当社は風力発電に直接関わっているのではなく、風力発電に用いられる新素材の強度を測定する計測機器を提供するなど、研究開発分野で製品やサービスを提供しています。今後、風力発電分野で、耐用年数の長期化を目指した開発(例:耐久性の高い新素材開発)の中で、当社の分析計測機器が活躍する機会はあると考えています。