楽天の携帯電話市場参入をどう捉えている?
質問者1:朝日新聞のオオシカです。非常に壮大なお話をありがとうございました。今うかがったお話と比べますと小さな話になるかもしれませんが、国内の携帯電話市場に楽天が参入することになりました。
孫さんとしては、楽天をどう迎え撃つのか。あとやはり国内の携帯電話市場。携帯料金が高いんじゃないかという理論がございまして、孫さんは「日本の携帯電話は高すぎる」と言って参入されたと思うんですが、やや高止まりしてる感もあると思います。
この点、どうお考えになっているか。以上2点お願いいたします。
孫正義氏(以下、孫):三木谷(浩史)さんはたいへん優れた事業家だと、私は高く評価しています。ですから、やる以上はそれなりの成果を出されると思いますし、そういう準備もしておられると思います。一企業家として、あるいは事業家として、彼の健闘をお祈りするということです。
情報革命では、いろんな人がいろんな役割を果たして、それなりの成果を出していくだろうと思いますので、その内の重要な1人である。とくに日本の市場においては、健闘をお祈りするということであります。
当然、我々はライバルとして迎え撃つわけですから、これは宮内(謙)社長を中心に、ソフトバンク側も他の2社を含めて、切磋琢磨することになろうと思います。
(携帯の)値段について言いますと、日本の通信料金はアメリカに比べて随分安いと、実際にアメリカで携帯会社を経営している立場の人間として思います。
アメリカのベライゾン・AT&Tは、はるかに高い。はるかに日本より劣ったサービスをしている。高いし、ネットワークがつながらない、通信は遅いということです。それをはるかに上回るクオリティのネットワークを提供している日本が、はるかに安い値段でサービスを提供している。これは、事実だと思います。
さらに、我々が携帯事業に参入する直前を思い出してほしいのは、女子高生を含めて当時は(携帯料金が)1人当たり1万円〜2万円かかっている状態でありました。
しかも、つなげられるパケットの数……通信量の数は、今よりもはるかに小さい状況でした。それに比べると、我々が「ホワイトプラン」だとか、さまざまなパケット放題のサービスを提供し、日本の価格が、例えばアメリカに比べて随分安くなったのは、我々が仕掛けた競争の成果でもあると私は思っています。
また、我々が参入する前は、日本はいわゆるガラケー全盛の時代であって。我々が、iPhoneを中心として、スマホを日本にもっとも普及率を上げた(会社である)とも思っています。
でも過去の話はさておき、さらに新しく楽天さんが市場に新たな角度から競争を仕掛けてくるというのは、いろんな意味で刺激があってよろしいのではないかと、我々もまた負けないようにがんばることだと思います。
よろしいでしょうか。なんか、余裕のある発言のような気がします(笑)。がんばります。
SprintとTモバイル合併をめぐる、この半年の心境は?
質問者2:本日はありがとうございました。日経新聞のオオニシと申します。アメリカの事業について1点と、もう1点おうかがいしたいことがあります。
アメリカの携帯の話なんですけれども、昨年の秋に孫さんは(SprintとTモバイルの合併交渉が)破談された際に、「すっきりとした晴れやかな気持ちだ」とおっしゃって、今回は「一時的な退却というか、恥ずべきだけど長い目での勝利を望んだ」と。
このあいだの孫さんの葛藤・気持ちに、どういったもの(変化)があったんですか。詳しい交渉の内容はさておき、孫さんの気持ちにいったいどういう変化があって、なぜこういう決断に至ったのかというところを、教えてください。これが1点目です。
孫:群戦略ですね。一言で言うと。群戦略が、より我々の基本的な戦略として、鮮明になった。さらに、Vision Fundがすばらしい立ち上がりを始めた。私自身の関心が、より群戦略に移ったというのが、1つの重要な要因になると思います。
もう1つは、SprintとTモバイルが合併することによって得られるシナジーだとか、得られる戦いのポジションは、非常に大きなものがある。
「その大きな成果の前に、小さな妥協はあってもいいんではないか」と、飲み込んだと。いろんな恥だとか、いろんなプライドだとか、いろんなこだわりというものを飲み込んで、より大きな成果のためには、いいんではないかと。
一時的な恥は、より大きな成果のためには受け入れてもいいんではないかと、思ったということです。ほかにもいくつか、いろんな要因がありますけども。ここでコメントできるものとしては、以上の2つがいちばん大きな要因です。
質問者2:ちなみに、いつそれを思われたんですか? 「飲み込むべきだ」というのは。
孫:この1~2ヶ月です。
質問者2:何か、きっかけはあったんでしょうか?
孫:大人になったんです(笑)。
質問者2:(笑)。
(会場笑)
質問者2:ありがとうございました。
Sprint合併について、取締役会の意見は?
質問者3:日経コンピュータのオオワダです。同じく、Sprintの合併についてうかがいます。
半年前の決算説明会で、孫さん自身は「なんでもあり」とおっしゃっていたので、そういう意味でいうと、今回の決断にそんなに私自身は驚かないんですけれども。一方で、取締役会の共通意見として、「アメリカは重要市場だ」というお話だったと思うんですね。
そうすると今回のご決断について、取締役会のほかのメンバーの方は、どういう理由・狙いでご意見を変えて結論が変わったのかと、そのあたりをご説明いただけますでしょうか?
孫:アメリカが最も重要な市場であるというのは、全員変わってないです。ですから今回、我々は売却してないと。1株も売却してないというのは、アメリカが最も世界で重要な我々の市場であるというのは、変わりないという意味です。
一方、経営のコントロール権について。「我々がコントロール権を持つ」というところまでは、最初から言ってなかったんです。一番最初のところは、買収した直後はそれはあったんですけれども、この何年間かはそこにはこだわってなくて。ただ、対等かそれに近いぐらいの意思決定権を持っているというところにこだわって、交渉していたわけですけれども。
今回は取締役会全員一致で、そこにこだわるよりも実を取ったほうがいいのではないかと。名を取るより実を取ろうというのが、今回、みんな合意したところですね。
質問者3:「携帯事業も群戦略の一環」というお話がありましたけれども。その視点で考えますと、当然ながら日本のソフトバンクKKも「群戦略」の一環と考えられると思うんですが。上場に、前後して出資比率をもっと2、3割ぐらいに引き下げて、経営権あるいはメジャー出資をほかの外部に引き渡すようなご予定というか、ご計画のお考えはあるのかというところについて、「なんでもあり」以外のご回答をお願いしたいんですけれども。
孫:そこだけは「なんでもない」と、なんでもありではないと(笑)。なぜかというと、ソフトバンクは日本で上場している。日本という限られた地域の中では、一番我々が造詣が深くて、かつ組織としてもいろんな強みを持っている。我々の根源の国が、日本です。
Yahoo! Japanもありますし、そのほかたくさん我々のグループ会社がありますので。この日本で、例えばさっきVision Fundのジョイントベンチャーを着地させる場所としても、日本に重要なこだわりを持ってやっていきたいと。
そういう意味では、日本のKKを分離独立して、独立採算の会社としてやっていきますけれども、「群戦略」の中では中核的企業であると。そこのところは、変わらないということです。
質問者3:ありがとうございます。
地方新聞買収に関心はあるか?
質問者4:ありがとうございます。テレビ朝日のニシダと申します。
「アメリカの大手新聞のトロンクの買収を検討されている」という記事がありましたが、これは本当に関心があるのでしょうか? というのが1点目です。また、通信コンテンツの拡充で、今後メディアの買収を戦略として考えていらっしゃるのかどうか、教えてください。
孫:地方新聞の買収に関心があるのかということですが、ソフトバンクとしては直接的関心は、現在まったく考えていません。
ただ、我々が買収した会社の中の1つであります、フォートレスが持っている会社のうちの1つに、たまたま今地方のローカル紙を保有しているような会社が含まれていると。その会社が現在やっている事業を拡大するという意味で、関心を持っているのかもしれないと。
それは、今すでにやっている事業の単なる拡大ということで、我々がそれを止めるわけにもいきませんし。それはそれなりにフォートレスの投資先の1つとして、業績が順調に進んでいると私は聞いていますので。
そこをあえて止めにいくということではないけれども、本当にやるのかどうかとか、どのぐらいやるのかというのは、今現在やっている事業の延長としてどこまでいくのかというのは、僕は直接知らないというのが実態です。
ソフトバンクグループとして、新たになにかやろうということは、まったく考えてません。
もう1つ、なにか聞かれましたっけね?
質問者4:大丈夫です。ありがとうございます。
孫:じゃあ、ほかの方。
UberとDidiをVision Fundに紹介する理由は?
質問者5:ロイター通信のサムと申します。UberとDidiをVision Fundに紹介する予定だと書かれていると思いますが、その理由について聞かせていただきたいです。今までDidiをVision Fundに紹介できなかったので、デルタ・ファンドを設立したと理解しておりましたが、なにが変わったのか? それから、OlaとGlabも紹介する予定があるのかどうか。その点について、お願いします。
孫:もともと我々のVision FundのパートナーでありますサウジアラビアのPIF(パブリック・インベストメント・ファンド)が、すでにUberの株式を持っていました。確か、5パーセント前後持ってます。彼らがUberを持ってて、Uberと競合する可能性のある会社への投資は、Vision Fundとしては彼らの事前の承認が必要であるという契約が、最初に交わされていました。
一方、我々のVision Fundとして、Uberに新たに15パーセントぐらい我々が投資をするということについて、サウジアラビア側も含めて合意を得たと。
ですから、Vision FundがUberと競合するのではなくて、Vision FundがUberに筆頭株主の立場で入るということが決まったので。それであれば、もともとソフトバンクがデルタ・ファンドということで、別途Vision Fundとは分けてDidiだとかOlaだとかGlabを持っていたのを、今度はまとめて全部Vision Fundに移してもよいのではないかと。
そのほうがコンフリクト・オブ・インタレストがないのではないかというのが、サウジアラビアおよび我々との現在の話し合いの状況になっていると。
今すでにその方向で基本的には合意して、それのプロセスを進めている最中だと。手続きを進めている最中だということです。よろしいでしょうか?
質問者5:OlaとGlabは……?
孫:OlaとGlabも、基本的には同じように移すという方向で考えております。
ゲームや動画コンテンツに関心はある?
質問者6:産経新聞のオオツボと申します。先ほどの質問で少し出たと思うんですけど、コンテンツを通信の上にというのは、アメリカでもけっこうやってるところが多いと思うんですけど。孫さんの非常に関心の高いと思われるゲームの会社ですとか、動画系のコンテンツのところとか、そういったところの買収のご関心は、今どうなんでしょうか?
孫:コンテンツの場合、Yahoo! JAPANとしてやるとか、あるいはソフトバンクモバイルKKが若干やることはあると思うんですけれども。Vision Fundあるいはソフトバンクグループが、コンテンツで何か大がかりに狙っているものは、少なくとも今現在はない。
将来はわかりません。将来は何でもありえますけども、今日現在は、僕自身に大きなそこへの関心があまりない。ただ、もしかして、非常にいい条件でチャンスがやってくるのかもしれませんので、それはそれで(将来)考えるということです。よろしいでしょうか?
質問者6:それは、なんででしょうか? AIとか、やはりそちらの先進的な技術がご関心ということですか?
孫:そうですね。やっぱり我々の、3大分野としては、「AI」と「IoT」と「スマートロボティクス」です。それが、3つ一番関心のあるところで、情報革命の中心だと思っています。
ただし、コンテンツでも、我々がとくに何か……コンテンツって、けっこうバラけてるじゃないですか。あまりにも小さく細切れにバラけてる状態のところを1つやっても、大した強みを発揮できないのではないかと思うからです。
ただし、もしかしてそれが、世界的に非常に大きな意味合いを持つとか、何か強い……。
(アラームが鳴る)
孫:ん? なんか……終われということかな(笑)。
(会場笑)
孫:すみません、時間ですね(笑)。ということでございます。
サイトブロックについて
質問者6:ドコモは先日、サイトのブロックについて吉澤(和弘)さんがコメントして、「コンテンツビジネスをやっている者として、ブロックする立場を示しているんだ」というコメントをしているんですけれど。
孫:それは、宮内社長が(お答えします)。
質問者6:ソフトバンクの場合、通信事業者の他にプロバイダだったり、広告を配信する先だったり、広告主という顔もあると思うんですけれども、ああいう海賊版サイトに対してのご見解を一言いただければと。
孫:じゃあ、宮内社長。
宮内謙氏:お答え申し上げたいと思います。確かに、著作権を侵害していることについては、放置することのできない非常に重要な問題だと思ってますけれども、一方でみなさんもご存じのように、業界団体などとも連携して、通信に紐づく法制度の問題。このへんを踏まえて、運用面・技術面も考慮しながら、何が実行可能かについて検討しているところであります。
NTTさんは、もう「ブロックする」と発表されて、我々も社内では相当議論しました。でも、やっぱりどうしても、両方の意見がけっこう強くあるもので、あまり一気に何でもブロックすると……今現実に、漫画のサイトは全部ブロックされていますよね。
なので、そこの線引きが非常に難しいので。たぶんこれは、国としても法案化するか、いろんな議論がこれからなされると思います。その上で対応していきたいというのが、我々の見解であります。
孫:じゃあ、時間も過ぎましたので、ここでいったん締めさせていただきたいと思います。また質問がある方は、私どもの担当を通じて、いろいろご質問を寄せていただきたいと思います。
冒頭に申し上げましたように、群戦略はソフトバンクの根底に関わる戦略でございますので、これからも何度か触れることがあると思いますが、徐々に理解を深めていただきたいと思います。よろしくお願いします。ありがとうございました。