アリババ株は1株も売りたくなかった
孫正義氏:私はソフトバンク2.0の第1弾として、なぜソフトバンクがSupercellの株を売却し、ガンホーの株も大半売却し、売りたくないアリババの株も一部売却してまで、ARMの投資にいったかというのは、これからやってくるソフトバンク2.0、これからやってくる重要なパラダイムシフト。
それはこのあと説明しますけど、そのちょっと手前で、なぜアリババを売りたくなかったのか、ということをもう1回再認識の上で、このグラフを確認していただきたいと思います。
先週発表されたアリババの決算結果です。
もう時価総額は、日本で一番大きな会社トヨタを抜いています。すでに時価総額でトヨタを抜いた、20数兆円という規模のアリババですが、この1年間で売上が55パーセント伸びています。
純利益も直近の3ヶ月で、日本円で2,000億です。3ヶ月で2,000億円ですよ。しかも、それが前年対比41パーセント伸びていると。
アリババは決してまだ収穫期に入っているのではなくて、ものすごい先行投資をたくさんしています。Ali CloudやAnt Financial、Alipayなど、いろんなものにどんどん先行投資をしています。
にもかかわらず、まだ収穫期に入っていないのに、純利益の絶対額で3ヶ月で2,000億円のところまできてる。かつ、それが41パーセント伸びている。
だから、本当はアリババ株はまだ1株も売りたくなかったと。でも、それを一部売ってでも……まだ7〜8兆円分持っていますけれども。
シンギュラリティによる産業の再定義
約1兆円分のアリババ株を売ってでもやりたかった、ソフトバンク2.0。それは何かというと、これからやってくる成長戦略を加速させるため、ソフトバンク2.0に突入するためであります。
なぜそこに向かうのかというと、私に感じている、私には見えているビジョンがあると。多くの人が賛成するかどうかは別として、少なくとも私はこれに今すぐ本気で取り組まなければいけないと思ってることがあります。それはSingularityであります。
私は今まで何度か公の場で言葉として触れさせていただきましたが、Singularity、超知性。コンピュータの知的能力が人間の知的能力を圧倒的に超えていくと。その時がもう目の前に迫っているということであります。
一部のテーマではもう超えてきましたよね。将棋・囲碁・チェス、これは人間の知恵・知能をコンピュータの知能が越えてしまったわけですね。
でも、これが天気予報だとかチェスとか囲碁とか、そういう世界だけではなくて、さまざまな分野でこれが起き始めるということですね。Singularityが超知性として人類の知能を超えていくと。
そうすると、すべての産業が再定義されるということです。産業革命によってそれまでの産業が、農業も、そして手作業でやってた手工業、こういうものが全部、産業革命によって、エネルギーが入って、動力が入って、そして再定義されたわけですね。
乗り物の世界で言えば、人力車があったわけですよね。人間が手で引っ張ってたわけです。これが、エンジンという動力というもので、人力を越えて、はるかに速く、はるかに遠くに運ぶことができるようになったわけですよね。
これは産業革命ですけど、情報革命においては、人力車が人力で引っ張って人を運んでいたよりも、動力で速く遠くに運べることになったように、人力で考えるというよりも、マイクロコンピュータの力を使って考えたほうが、はるかに速く、はるかに正確に、はるかに遠くに人々の生活に影響を与える、生産性を改善させる。そういう時代が目の前にきている。
それによって、あらゆる産業が再定義されることになる。再発明されることになる。
Uberなんかも(再定義の)1つの事例ですよね。Airbnbなんかもきています。FinTechもさまざまな分野で金融が再定義されるでしょう。
電話も、スティーブ・ジョブズによって、今までは「もしもし」「はいはい」という電話が、モバイル・インターネットというかたちで、スマートフォンということで再定義・再発明されました。
彼は電話を再発明するということで発表しました。まさに一瞬で、人々のライフスタイルが変わり、Appleは世界最大の時価総額の会社に生まれ変わりました。
倒産寸前だったAppleが生まれ変わったわけですよね。このような現象が、さまざまな産業でドミノ倒しのように起きていくということであります。
これは1つのテーマ、1つのテクノロジー、1つのビジネスモデルだけでやっても間に合わないくらいの大きな根源的革命であると。産業革命をはるかに越える革命が、このシンギュラリティ、情報革命によってなされる。
その人類史上最大のプロジェクトそれをやるのに、我々が1社で農耕作業のように1箇所だけを耕し続けて、1箇所だけ種を一生懸命蒔いて育てるだけでは間に合わないと。
それほど大きな革命が目の前に起きているということを私は感じているわけです。それで、今までも私の過ぎ去りし、遅々として小さな耕しをやっていた自らを大いに反省し、ソフトバンク2.0に打って出るということを決めたわけです。その第一弾がARMでした。
10兆円規模のソフトバンク・ビジョン・ファンドを設立
しかし、人類史上最大のプロジェクトに我々が取り組むにしても問題がありました。
それは何かというと、みなさんも何度も耳にしたと思います。何度も一緒に怖がったんじゃないかと思います。
「ソフトバンクは借金が多すぎる」「やる気はいいけど、借金が多すぎるじゃないか」ということであります。それでは、借金を増やさずに、この革命にどう取り組むのかということで考え続けました。
その答えが「SoftBank Vision Fund」ということであります。
ソフトバンク2.0の1発目のARMを買っただけで、我々の借金が4.0倍を越えるところまできてしまったと。ボーダフォンジャパンを買ったときは、6.5倍くらいまでいったんですよ。
それがいったんグーっと下がり始めて、もう1回Sprintの買収、そしてARMの買収ということで、我々の償却前の利益に対して負債が4.0のところまで上がったと。
それ以上さらに負債を増やして、(ソフトバンク)2.0に取り組むわけにはいかない、「ではどうすればいいのか?」ということで、もちろんさっき言いましたように、我々が真面目にコツコツと耕している通信事業は年間6,000億円規模のフリーキャッシュフローが出ています。
(しかし)その程度のお金では間に合わない、足りないと。その程度ではこの2.0の革命期には間に合わないということで加速する、でもバランスは逆に4.0の借り入れを3.0まで減らすと。バランスを改善し、でも攻めると。守りをより固めて、攻めると。そのための答えがソフトバンク・ビジョン・ファンドです。
規模は10兆円です。この10兆円という規模は、中国が主導して作ったAIIBの資本金が確か10兆円くらいだったんじゃないかと思います。
10兆円というと、アメリカのすべてのベンチャーキャピタルが、この直近2年半で調達した資金の合計の2.5年分であります。その規模のお金、10兆円分を我々がすべて準備するということであります。
今まで世界中であったプライベートエクイティの投資ファンド、これの一番大きかった投資ファンドの調達金額の4~5倍程度ということであります。規模はどうでもいいんですけれども、さはさりながら10兆円ということです。
それで私に言わせれば、「これは第一弾だ」ということを、ここで少し大ぼらを吹いておきます。これは入り口であるということであります。
とりあえず第一弾のこの10兆円を無事成功させないといけませんけれども、我々がこの10兆円の2.5兆円分を自らの資金として出します。
パートナーとして賛同してくれたのがサウジ(アラビア)であります。サウジアラビアの政府の投資部門、パブリック・インベストメント・ファンドということでこのPIFは、サウジの国家としての資金を我々に4.5兆円賛同してくれることになりました。
残り3兆円についても、複数のソブリンファンドと話をしていますけれども、大変強い関心をいただいております。一応10兆円は調達できると思います。
インターネット企業への投資実績
ちなみに我々の実績ですけど、先ほど言いましたように、畑仕事のように、自らの畑をしっかりと真面目に耕していくという事業は、国内だけで税引き後・設備投資後のフリーキャッシュフローとして年間6,000億収穫できるようになりました。
一方、投資事業に対するリターンは44パーセントということでありました。この44パーセントは直近の18年間の実績であります。直近の18年間、インターネット関連の企業に対して、投資をしていくらリターンを得たかというと、44パーセントと。これは2年で倍、2年ごとに倍倍々をずっと続けてきたということであります。
ではこのなかで、「アリババが大成功したからだろう」と。確かにアリババは額として大成功した。実は(投資収益)率はアリババではないんですけど、額としてはアリババが一番大きかったと。
では、「アリババを外して計算したらこの44パーセントはいくらになるの?」と質問を受けることがあります。実際に調べてみました。
そうすると、アリババを除くと43パーセントでした。つまり、ソフトバンクはアリババの成功がなくても、44パーセントではなくて、43パーセントの実績であったということであります。
これらは、「小さい会社に投資したからリターンが大きかったんだろう」と言われることがあります。
じゃあ、通信の会社を入れるとどうかと。私が重荷であったというスプリント、そしてボーダフォンジャパンを足して計算し直すと、投資した額が3兆円でリターンが20兆円ということで、3兆円投資してリターンとして20兆円を得たと。
この額の規模、そしてこの率というのは、おそらく聞いたことのないレベルだろうということで調べてみました。
これは18年間。3年間とかではなくて、数百億円ではなくて、20兆円のリターンを得たということでの18年間での実績ですけれども、この直近の18年間、世界でトップ10ぐらいの大きな世界中の投資ファンドを調べてみました。
名前を挙げるといろいろ差しさわりがありそうなので、あえてファンドA・B・Cと名前をつけさせてもらいましたけど、彼らは10〜15パーセントぐらいの投資収益率でありました。我々の44パーセントというのは、圧倒的なレベルでありました。
「もしかして」ということで調べてみた結果、これであったということで、我々は投資に対してのリターンも十分いけたんではないかと。
今後の財務方針
したがって、このソフトバンク2.0において、シンギュラリティ。この目の前にやってきているもっとも大きな人類史上最大のチャンスに対して打って出るということで、最初に呼応してくれたパートナー、サウジの若きリーダーである彼が、「マサ、わかった、やろう」ということで非常に意気投合しまして、合意してくれたということであります。
先月、彼と直接、覚書を調印させていただいたということであります。彼自身もソフトバンク、ぜひパートナーとしてやっていこうということでありました。
結論を申し上げます。ソフトバンクは守りを固めます。4.0倍まできた我々の負債の比率を3.5倍まで改善します。さらに、そのあとはもっと改善します。
というのは、今後は数百億円以上の投資は、原則としてこの投資ファンドから投資すると。ソフトバンク本体に対してはノンリコースです。ですから、リスクが本体に及ばないと。よりしっかりと守りを固めると。
今後ソフトバンクは、大きな投資は借金を増やして投資するのではなくて、投資ファンドということで、パートナーから資金を募り、パートナーから成功報酬をもらいながら投資を続けていくというかたちでやっていきます。ですから、ソフトバンクはバランスシートは必ず改善すると。
なぜなら、年間6,000億のフリーキャッシュフローがあって、新たな投資は原則としてこの投資ファンドでやるということは、借入の比率はおのずと自然体で確実に改善するということを意味するわけですね。構造的にソフトバンクのバランスシートは改善するということであります。
したがって、我々は、目の前にやってきた人類史上最大のチャンス。シンギュラリティを迎えるにおいて、我々は世界的戦略でより安全を増しながら攻めていく構えを作ったということでございます。
これまでの反省を込めて、ソフトバンク2.0に向かっていきたいと思います。以上です。よろしくお願いいたします。