「総合生活文化企業」スターツグループ

菊地修一氏(以下、菊地):スターツ出版社長の菊地です。どうぞよろしくお願いします。それでは弊社説明会を始めさせていただきます。

スターツ出版は、「総合生活文化企業」であるスターツグループに所属しています。国内56社・海外32社のグループ88社を誇る、従業員数9,000人のグループ企業で、その中の出版部門を担当しています。

スターツ出版のビジョン

菊地:弊社はビジョンとして「感動プロデュース企業へ」を掲げています。スターツグループは「総合生活文化企業」として事業を展開しているわけですが、弊社はその中でも紙とデジタルを駆使するユニークな出版社です。

時代に合わせたコンテンツの発信で、多くのエンドユーザーに喜んでいただく「文化企業」であり続けることを信念とし、「感動プロデュース企業へ」のビジョンに基づいて経営しています。

スターツ出版のミッション

菊地:2023年に、新たなミッションとして「文化と笑顔の需要創造」を制定しました。この「文化」は読書文化です。「笑顔」には、新型コロナウイルスも落ち着きを見せ始める中、マスクを外して街へ出て、みなさまに笑顔になってほしいという意味が込められています。

私たちはその願いを叶えるメディアやサービスを数多く持っているため、文化と笑顔の需要創造をしていこうと、ミッションに制定しました。

スターツ出版(株)の事業領域

菊地:スターツ出版の事業領域は大きく分けて2つあります。まずは書籍コンテンツ事業です。スライド左側のとおり、小説投稿サイトを起点とした書籍・電子書籍・コミックビジネスを扱っています。

もう1つはメディアソリューション事業です。弊社は昔から多くのメディアを持っていますが、メディアソリューション事業をさらに2つに分け、「OZのプレミアム予約」として、厳選店舗だけを掲載した「オズモール」上での送客手数料ビジネスと、『オズマガジン』『メトロミニッツ』などメディアを使い、ライフスタイルやエリア領域で、メディア力を活かした宣伝・販促ビジネスを展開しています。

2022年までの売上高・営業利益推移

菊地:2022年までの業績をご報告します。コロナ禍で多少の影響が出ましたが、基本的には売上高・営業利益とも順調に業績拡大できています。また、2022年はかなり角度が大きくなり、さらに一段高いステージに上がってきたと認識しています。

2023年第1四半期の決算

菊地:先般発表した、2023年第1四半期決算についてご報告します。好調だった2022年の実績を大きく更新しました。売上高は、前年同期比45パーセント増、営業利益は前年同期比161パーセント増と、第1四半期の3ヶ月間で6億円の営業利益を出すことができています。

営業利益率も、前年同期で16.9パーセントだったものが、この第1四半期は30.2パーセントと非常に高い数字を出しました。

セグメント別の状況

菊地:セグメント別の状況です。先ほど、弊社事業は主に書籍コンテンツとメディアソリューションの2つに分かれているとお伝えしましたが、書籍コンテンツ事業が大きく牽引しており、この6年の間、書籍コンテンツ事業が大きく拡大しています。

一方、メディアソリューション事業は、2022年は6,900万円ほどの赤字でした。比較的順調だったコロナ禍前と打って変わり、コロナ禍の影響をまともに受けて赤字に転落していました。2023年第1四半期でプラスマイナスゼロとなり、ようやく赤字脱却できたところです。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):ここからは質問を挟みながら進めたいと思います。前四半期は書籍コンテンツ事業の伸びが非常に良いと思うのですが、その背景について教えてください。

菊地:書籍コンテンツ事業が今回も大きく伸びた理由の1つは、『鬼の花嫁』の大ヒットです。文庫とコミックの2形態で出版しているのですが、どちらも大変よく売れています。

『鬼の花嫁』はどこの書店に行ってもかなり目立つところに陳列されており、紙の小説とコミックだけですでに100万部を超えているため、こちらが大きく牽引しています。

ただし、『鬼の花嫁』の一本足打法というわけではなく、実は他のレーベルも非常によく売れています。こちらに関しては、後ほどデータを基に説明させていただきます。

1Qの売上・営業利益は、前年実績を大きく更新

菊地:第1四半期の売上・営業利益のグラフです。売上高は20億5,200万円となり、2022年と比べてもジャンプアップしました。営業利益は6億1,900万円で、こちらも大きくジャンプしています。

順調に伸び続ける書籍コンテンツ事業

菊地:その業績を牽引している書籍コンテンツ事業からご説明します。こちらがレーベル別売上高の四半期別グラフですが。2017年から継続的に右肩上がりで成長を遂げています。

2023年第1四半期は、2022年第4四半期から比べると若干落ちてはいますが、毎年第4四半期が一番売れ行きが良く、発行点数も多いという季節的な要因もあります。

2022年第1四半期と比べても、130パーセント以上の売上を確保しています。中でもコミックが非常に伸びており、こちらについても後ほどご説明します。

坂本:順調にコンテンツの売上が伸びている中でも、第1四半期は前期第4四半期と比べて若干減収となっています。これは第1四半期特有の季節性のようなものがあるのでしょうか? 前年同四半期と比較すると大きく伸びていますが、前四半期と比べると数字が落ちているため、お聞きしたいです。

菊地:毎年第4四半期で売上のピークを迎え、第1四半期で落ち着く傾向があるため、そのトレンドという認識です。

全国書店売上が前年割れの中、スターツ出版の「紙書籍」は着実に伸長

菊地:こちらのグラフは、紙書籍の月次ベースでの前年比を表しています。実は、全国書店での書籍物の売上は、この緑の折れ線を見ていただいてもわかるとおり、80パーセントから90パーセントと、ずっと前年比割れの状態で推移しています。

いかに紙の本が苦戦しているかを表しており、全国の書店も非常に苦労されていると思いますが、弊社はオレンジ色の線からわかるとおり、だいたい110パーセントから145パーセント、平均120パーセントの伸び率を出しています。

全国書店平均と比べると30ポイントほどの差があるため、突出して弊社の商品が売れている状況です。この数ヶ月で全国書店チェーンの経営者を回っているのですが、どちらに伺っても、やはり弊社商品が相当売れていると聞いています。

坂本:全国書店平均がかなり減少しているのは、コロナ禍の巣ごもり期間で読書が増え、少し潤ったところからの反動もあったと思うのですが、御社はその中でずっと伸び続けています。

グラフの前年同月比の成長を見ると、どの月も100パーセントは超えているものの、ばらつきがあるように思います。これは新作タイトルや人気タイトルの続編などの発売でぶれていくものなのでしょうか?

菊地:例えば2022年8月あたりが145パーセントと高かったのは、先ほどお伝えした『鬼の花嫁』が発刊され、一気に店頭に行き渡ったためです。

このように多少の浮き沈みはありますが、おっしゃるとおり、巣ごもり需要の反動で書店全体の売上が落ちている中で、なぜ弊社商品が売れているのかといいますと、今まで本を読んでこなかった方々が新たに読者となり、その後もリピーターになってくださっていることが背景にあると思います。

坂本:需要を掘り起こして、それを刈り取っているのですね。

菊地:そのとおりです。そのため、冒頭でお伝えした、ミッションである「文化と笑顔の需要創造」を実行している最中ということになります。

坂本:スライド右側の写真は、御社の棚と言われるものだと思いますが、私が書店を定点観測していると、御社の棚が少しずつ広がっているような気がします。

菊地:おっしゃるとおりです。

坂本:こちらは営業社員の地道な営業が奏功しているのか、それとも売れるタイトルがあれば勝手に広がっていく世界なのか、書店の特質のようなものがあれば教えてください。

菊地:その両方です。弊社の営業部員が、全国の書店を日夜地道に、丹念に回っていることに加えて、もともと今の読者のハートをつかむようなコンテンツを数多く作っているため、特にこの写真のように、表紙を見せて陳列する「面陳」をしてくださっている書店が非常に増えてきています。

坂本:面陳は本5冊分以上の場所を取るため、本当に売れる商品にしか使わない陳列方法ですね。

菊地:スターツ出版の本の特徴として、表紙にかなり気を配っている点が挙げられます。ふらっと通りかかった方が、その表紙を見て立ち止まり、「あら、これ素敵」と手に取るだけの力を持っているため、おそらくどこの書店もそこに着目して、本の表紙をできるだけ見せて陳列しているのではないかと思います。

坂本:非常によくわかりました。

菊地:実際に、書店で目立つだけではなく、買った方が読んだ後で自分の部屋に飾っている例もあり、そのような効果もあります。

坂本:私たち世代の「CDのジャケ買い」の書籍版ですね。

菊地:そのとおりです。読み終わった方が心に残ったものを部屋に飾っておくような、それだけのものを作っているということです。

右肩下がりの市場の中、『読書文化』の需要創造へ

菊地:読書の文化はやはり非常に大事だと思うのですが、全国の出版物売上高は、残念ながら2006年の2.5兆円をピークに右肩下がりです。現在は電子書籍が少し盛り上がっているため、紙が落ちている分は賄えてはいますが、ピークに比べて約6割の1.4兆円にまで落ちてきてしまいました。

本が売れなくなるというのは、やはりとても辛いことです。私どももいかにして本を読んでいただくかということに腐心しており、弊社の書籍の売上は、2016年の9億円から、2022年は41億円と非常に大きく成長しています。

ただし、「兆」と「億」で単位がまったく違うため、多少の誤差の中でがんばっている程度だと思いますが、新しい読者を開拓していることは間違いないと思っています。

坂本:スライド左側の全国出版物売上は低下していて、右側の御社売上は上がっているということですが、御社が得意とされているジャンルの売上推移、市場規模が拡大しているのでしょうか? それとも、御社が他社のパイを食べて成長しているのでしょうか?

菊地:弊社の読者から送られてきた読者カードやネット上に流れている声を読むと、「生まれて初めて紙の本を買った」という方が多いのです。

スターツ出版の本は「スタ文」「スターツ」などとよく言われるのですが、「スターツやばい」「スターツやばすぎる」という声もあります。また、読後にファンになり、発売日には必ず買いに来てくださるお客さまも増えています。

そのようなコメントが多く見受けられるため、やはり新しい読者を開拓しており、その方々がリピーターになっていると思っています。

坂本:この「スターツやばい」「スタ文やばい」は、「スターツ出版の本は良い」という意味で、先ほどおっしゃったように『鬼の花嫁』の一本足打法ではなく、他のレーベルや文庫も、良い意味での「やばい」ということですね。

菊地:おっしゃるとおり、若者言葉で「良い」という意味での「やばい」です。おじさん言葉ですと、「やばい」は本当にやばいのではないかと思うのですが、そちらの意味ではありません。

抜きん出た商品があったり、どこかの作家の大当たりした作品を出版しているというわけでもなく、どのレーベルもおしなべて新しいファンが付いているイメージです。

坂本:非常によくわかりました。ありがとうございます。

Z世代に支持をうける 「スターツ出版文庫」

菊地:こちらが象徴的な「スターツ出版文庫」です。「Z世代に支持をうける」と記載していますが、Z世代の方々は紙の本をなかなか読まないと言われ、マーケティングが大変難しいのです。つまり、生まれながらにデジタルデバイスとともに育ち、生まれた頃からスマートフォンが身近にあって、スマートフォンとパソコンですべての事が足りてしまう世代です。

この方々が、紙の本を初めて手に取って、1冊読み切って、スマートフォンでは感じることのできない感動を体験してくれています。そのため、これだけの部数が売れているのだと思います。

弊社の読者はおそらく小学生、中学生、高校生くらいだと思います。「スターツ出版文庫」は電子書籍でも読めるのですが、ほとんどが紙で売れています。

児童向け「野いちごジュニア文庫」拡がる

菊地:こちらは児童向け「野いちごジュニア文庫」です。ちょうど新型コロナウイルスが拡大し始めた3年前に、満を持して創刊したレーベルで、小学生向けの児童文庫です。

この児童文庫というのは、大手出版社が何十年も棚を占有している部分で、私どもが子どもの頃もずいぶんお世話になりましたが、そこにこのようなピンク色の「野いちごジュニア文庫」を投入しました。

この3年で、またたく間に全国の児童書店コーナーでシェアを増やしてきています。スライドの写真にあるとおり、子どもが一番手に取りやすいところにピンク色の本が置いてあります。

坂本:すごいですね。

菊地:中でも、シリーズ累計93刷54万部の『総長さま、溺愛中につき。』という本が非常に売れています。児童文庫というのは、子どもが自分で買うというよりも、親御さんが子どもに買ってあげるものですので、親御さんが子どもに読ませたい名作シリーズを中心とした本が多いのです。しかし弊社の『総長さま、溺愛中につき。』は一見、あまり親が子どもに読ませるような児童文庫とは思えないようなタイトルです。

坂本:そうですね。暴走族やヤンキーの話ではないかと思いますよね。

菊地:しかし、実は思春期の子どもにとってはファンタジーで、今の時代ではあり得ないようなワクワクする物語が展開されて、本当におもしろい物語です。子どもが自分で買いたい本が売れている典型的な例になっています。

初の男性向けレーベル「グラスト」も急成長

菊地:昔から『オズマガジン』や「オズモール」などをはじめ、弊社の商品やサービスはすべて女性向けでした。社員も7割が女性です。男性社員の情熱のもとで、初の男性向けレーベル「グラスト」を発刊しました。コミックと文芸の両方を出しているのですが、スライドのグラフにもあるとおり非常に売れており、この1年間で急成長を遂げています。

紙の本もデジタルも両方売れています。今までは隔月刊だったのですが、販売好調ですので5月からは月刊にして、発行点数を拡大していこうという戦略商品の1つです。

坂本:男性向けレーベル「グラスト」の年齢層は、どのあたりを対象にしているのでしょうか?

菊地:40代男性が中心です。20年以上前の若い頃に、『ドラゴンクエスト』シリーズや『ファイナルファンタジー』シリーズにおそらく夢中になったであろう方々を対象にした商品群です。

坂本:月刊誌も週刊誌も減り、休刊するところも多いため、読む漫画が減っているというイメージがあります。ですので、意外と新しく読みたいという人がいると思います。

また、少年誌などにもよく見られる傾向だと思うのですが、男性向けのものを実は女性が読んでいることも考えられます。そちらについて教えてください。

菊地:創刊して1年経ち、女性読者を意識した作りにしていくと、間違いなく男性読者プラスオンで、女性読者がつくということがわかってきました。男性のみをターゲットとしたものよりも、女性にも読んでいただけるもののほうが、当然ながらトータルでは売れます。

今は編集部に男性社員だけではなく女性社員もおり、男女混合でコンテンツを企画、発刊しています。

坂本:絵がきれいなのでそうではないかと思いました。女性がある程度買うため、売上も大きく伸びているということですね。

投稿サイトから作家を発掘、紙とデジタルの循環で読者を拡大

菊地:弊社の書籍事業が、なぜ伸びているかという仕組みについてご説明します。弊社はもともと、有名作家が書き下ろしてくださるような会社ではなく、まったく作家さんがいない状態からスタートしています。

そこで、3つの小説投稿サイト「野いちご」「Berry’s Cafe(ベリーズカフェ)」「ノベマ!」を、自社で開発して運営しています。ただし、小説家、作家になりたい方は大手出版社に持ち込みに行くため、「スターツ出版で作家になりたい」というモチベーションの方は、今でこそ増えていますが少し前まではそれほどいませんでした。

しかし、このサイトは本を書くことを趣味にされている方や、自分のイメージをブログに書き記しておくことが趣味の方が、文章を書きやすい設計になっています。弊社の編集者がそのようなコンテンツを丹念に探して、数百人に1人の文才のある方を見つけてお声がけして、作家デビューしてもらっています。

デジタルではなく、まずは紙の本の作家としてデビューしてもらい、あわせて電子書籍化します。その中でヒットしたものに関しては、漫画家さんにお声がけして小説を原作に漫画を作ってもらい、それを電子コミックにするのです。電子コミックにすると、すぐに売れ行き状況がわかりますので、売れ行きの良いものに関しては、その半年後に紙のコミックにするというかたちです。

最初に小説投稿サイトのデジタルコンテンツが紙になり、それが電子書籍になり、電子コミックになって、最後に紙のコミックになります。紙とデジタルが循環しながら、その間に口コミや読者が広がっていくのです。このように、新たに作家や読者を発掘できる、需要創造しているようなモデルになっています。

読者ターゲットを細分化し、マーケティングを徹底

菊地:読者ターゲットを細分化し、マーケティングを徹底しています。スライドのとおり、読者は小学生、中学生、高校生、大学生、大人女性、大人男性に分かれています。

スライド上段が紙のレーベル、下段がデジタルです。子ども向けは、デジタルでは販売していません。だいたいどのレーベルにも編集部があり、レーベルごとに毎月2点から5点を継続して発刊しています。

坂本:マーケティングの細分化や徹底が収益につながっているということですが、どのような細分化、マーケティングを行っているかの例があれば教えてください。

菊地:例えば今時の小学生、中高生などターゲットごとに、どのような感性を持っているのか、何が流行っているのかについてアンテナを張りめぐらせており、編集部、販売部、小説投稿サイトのチーム総出で、読者の流行キーワードや属性を研究しています。

発刊した作品に関しては、売れたものと売れなかったものなど、約50点の全商品を月次単位で分析し、収益管理も合わせて反省会を徹底的に行っています。

IP戦略推進中 人気作品が次々「映画化」決定でロングセラー化

菊地:昨年からIP戦略を推進しています。コンテンツの量もかなり増えてきました。店頭展示が広がると「スターツ出版の本は売れているな」と映画業界の方々も注目しているようです。

映画業界も若い方に映画館に来てもらいたいため、弊社にお声がけしていただくケースが非常に増えてきました。人気作品の映画化が次々と決定し、ロングセラーにつながっています。

今年はすでに3作品が決定しており、7月公開予定の『交換ウソ日記』は、素敵な物語になっているようです。試写会を見に行ったうちのメンバーが、久々に泣いたと言っていましたので、原作にもまして、良い作品を作っていただいたのではないかと思っています。

9月公開予定の『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』も非常に期待できる作品です。

12月公開予定の『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は、弊社の中でも非常にエポックメイキングな作品だと思っています。新型コロナウイルスの流行が一番ひどかった時期に「TikTok」で若者たちにこの作品を知ってもらい、口コミをどんどん書いてもらって、本屋さんに足を運んでいただき、30万部売れました。

現代の女子高生がタイムスリップし、第二次世界大戦の特攻隊員と恋に落ちるというすばらしい作品です。

この作品群が映画化されると、ティーンエイジャーに人気のキャストが出ていますので、今まで本を読んだことがない方も映画館で映画を見て、帰りに書店で原作を買ってくださるため、すでに今の段階から重版がどんどんかかっているという状態です。

坂本:先日映画を見に行ったら、ちょうど『交換ウソ日記』の予告が流れ、中学3年の娘も知っているようでした。IP戦略を進められているということですが、だいたいコミックが出てから映画化につながるかたちになるのでしょうか?

菊地:この3作品は自社ではコミカライズしていません。紙の文庫が出た段階で、どれも30万部から50万部売れているヒット作品ですので、相当の読者がついていると踏んだ上での映画化だと思います。

坂本:書籍の段階でこのようなIP戦略ができるという状況なのですね。

OZのプレミアム予約とは?

菊地:メディアソリューション事業についてご説明します。冒頭にお話ししたように、第1四半期は赤字からようやく脱却しました。送客手数料ビジネス「OZのプレミアム予約」と、メディアを利用した宣伝販促ビジネスの2つになっています。

厳選した店舗で、OZならではの贅沢でオトクな限定プラン

菊地:「OZのプレミアム予約」についてです。「オズモール」の男性の利用は2割程度ですので馴染みが薄いかもしれませんが、「オズモール」はスタートして27年となり、老舗のサービスになってきています。会員数400万人を超える、レストラン予約やトラベル予約、ビューティ予約ができるサービスです。

予約ができる大手サイトはたくさんあると思うのですが、弊社の「オズモール」は女性向けのサイトですので、あくまで女性を意識して作っています。また、あらゆるお店を検索してチョイスできるということではなく、編集者が街を歩いて厳選したお店のみを掲載している『オズマガジン』と同様に、「オズモール」も厳選した店舗のみをご紹介しています。

なおかつ、「オズモール」ならではの贅沢でお得な限定プランをたくさん作って提供しています。女性に喜んでほしい男性にも利用していただくというサービスです。これは手数料ビジネスモデルですので、広告費はいただいていません。

「OZのプレミアム予約」の予約組数は、1Q前年比148%。

「OZのプレミアム予約」の予約組数は、第1四半期は前年同期比148パーセントとなり、「オズモール」も書籍コンテンツ事業と同様に絶好調です。2020年はコロナ禍で、世の中の状況と同じように大きく落ち込んだのですが、そこから起伏を繰り返しながらも昨年末に過去最高記録を出しました。

この第1四半期の数字は、コロナ禍以前の2019年第1四半期の実績比でも121パーセントアップしたということで、特にレストラン予約が牽引しています。ただし、先ほどもお話ししたように広告費はいただいていません。弊社が厳選した店舗にお声がけしていますが、掲載店舗数はレストラン、ビューティサロン、トラベルのどのカテゴリにおいても増えており、コロナ禍の落ち着きに伴って、非常に期待できると考えています。

坂本:「オズモール」に関わる人員を書籍のほうに移して、その方々ががんばったため書籍コンテンツ事業が成功したというお話があったのですが、その方は「オズモール」に戻ったのでしょうか、それとも新しい方を採用されたのでしょうか?

菊地:コロナ禍に入った2020年は、お出かけはしばらく厳しいと考え、この事業の人員を書籍編集に異動させました。3年経って、ヒット作を生むベテラン編集者になっていますので、そのまま書籍編集者としてがんばってもらっています。「オズモール」のほうは、新たに新卒と中途採用で人員を補強しているという状況です。

オズモール厳選パティスリーのテイクアウト予約スタート

菊地:中でも、最近「オズモール」で、「オズモール厳選パティスリーのテイクアウト予約」というサービスをスタートしました。扱っているのは新進気鋭、超有名、地元に愛されるパティスリーです。お店に行ってケーキを食べるのではなく、「何月何日の何時に取りに行きます。それまでに作っておいてくださいね」というお取り置きサービスです。

例えば、スライド左側にあるような誕生日のケーキ予約です。誕生日に、会社の帰りにお店に行って、出来上がったケーキを持ち帰り、家族でお祝いするというかたちが叶います。非常にいいお店が増えており、予約が大変な勢いで入ってきていると聞いています。とても「オズモール」らしい企画です。

坂本:これはいいですね。一般的にはホームページを見ても、ケーキの内容は載っておらず、店頭に行って「何日にお願いします」というかたちが基本だったのですが、画像で見られるのであれば、このケーキにしようという決定が早く進むと思うので、流行るのは当然と思います。

菊地:先日の母の日にも相当、予約が入りました。

坂本:そうでしょうね。

菊地:はい、私も結婚記念日には妻に買っていこうと思っています。

坂本:いいですね。

誰もが知ってるブランドメディアで『おでかけ』のあと押しを

菊地:スライドはメディアの一覧です。実は、『オズマガジン』は創刊してもう36年経っています。首都圏では老舗中の老舗の女性誌になりました。『オズマガジントリップ』も16年、『メトロミニッツ』というフリーマガジンも、もう21年です。『アエルデ』という地域情報誌にいたっては40年、先ほどお話しした「オズモール」が27年です。

このように何十年も雑誌ビジネスを続けることは、実は非常に大変なのですが、これだけ長く続けると何が起きるかといいますと、当時お嬢さんだった方が母親になり、その方のお嬢さんと一緒に使っていただけます。なおかつ、長く継続することで、信頼と安心のブランドになるのです。母親がお嬢さんに教えてもらい、お嬢さんが母親に教えてあげるようなことも起きます。

すべてのメディアが「おでかけ支援メディア」ですので、コロナ禍は厳しかったのですが、ようやくコロナ禍が落ち着き始めて、マスクを外して街へ出かけ、笑顔が見られるようになってきていますので、このメディアビジネスもこれからどんどん広がっていくのではないかと思っています。

SNS情報発信組織「東京女子部」

菊地:さらに、長年続くメディアだけではなく、SNSがいまや当たり前という時代になりましたので、SNSで情報発信する「東京女子部」という組織も5年ほど前から作りました。情報感度の高いインフルエンサーを1,500人ほど組織化しています。

街に出かけたり旅に出かけたり、あるいは新しいお店ができたらそこに行って取材し、SNSでどんどん拡散してもらう、あるいは「オズモール」でも記事を書いてもらうかたちで活躍していただいています。

リアル体験イベント 始動

菊地:このようなメディアやSNSの組織を活用して、リアル体験イベントがようやく始動しました。実はイベントというのは、弊社のお家芸の1つでもありまして、コロナ禍の前までは、多い時には年間で100本くらいの集客イベントを開催していました。例えば30歳の女性を500人集める巨大女子会「OZmall★30歳パーティ」など、10年くらい前からそのようなことを実施しています。

とにかく街ににぎわいを広げていこうということで、弊社の女性向けのメディアを駆使しながら開催していたのですが、ようやく今年からスタートすることができまして、この『オズマガジン』と東京ソラマチがコラボしたイベント「YORIMICHI CAFE STREET 2023」も大盛況で、外国人のお客さまも非常に多かったです。

『メトロミニッツ』は東京メトロの駅の改札で毎月10万部、発刊して21年になる老舗のハイクオリティフリーマガジンです。先々週、GINZA SIXとのコラボということで、「日本のパンとワインとコーヒー」というイベントをGINZA SIXの三原テラスでさせていただきました。ここにも4,000人を超える非常に多くのお客さまに来ていただきました。

インバウンドも本当に増えてきましたし、今まで3年間はどこにも行けなかったという方々も多いと思いますので、そういう方々に私どものメディアで情報をいろいろと提供しながら、楽しい企画イベントを作って、街を盛り上げていきたい、あるいは地方の旅にどんどんとお客さまを連れ出して、地方もどんどんと盛り上げていきたいと考えています。

3ヶ年経営計画は、2月に上方修正済み

菊地:2023年2月に修正を発表しました3ヶ年の経営計画を、再度、スライドで掲示させていただきます。昨年、3ヶ年計画を発表していましたが、この2月に上方修正しました。今年は売上高75億円、営業利益17億円、来年が売上高80億円、営業利益18億円とステージを1段上げて、業績を広げていこうというかたちで発表しています。

坂本:すでに第1四半期の足元を見ると、もうまた修正しないといけないのではないかという状況だと思うのですが。

菊地:そうなるとよいと思います。

坂本:もし機会があれば、そこは速やかに修正されるということですね。

菊地:そのとおりです。そうなるようにがんばっていきたいと考えています。

スターツ出版 株式会社

菊地:私たちは「感動プロデュース企業へ」というビジョンと、「文化と笑顔の需要創造」というのをミッションに掲げているスターツ出版です。

質疑応答:紙媒体『メトロミニッツ』の方針について

坂本:個人投資家から事前にいただいた質問からおうかがいしたいと思います。先ほどご説明があった『メトロミニッツ』についてです。

「『メトロミニッツ』のファンです。紙媒体はこれからも発行してほしいと思っているのですが、時代の流れとしてなくす方針なのでしょうか? そのほうが利益が上がるのでしょうか?」というご質問をいただいています。

菊地:紙媒体は正直なところ、時代の流れとともに非常に厳しい状況に置かれていることは間違いありません。ただし弊社は絶対に、紙媒体はなくさないと考えており、雑誌も、この『メトロミニッツ』も、紙の書籍も含め、紙はやはり絶対なくならないと思っています。

利益とは関係ないのです。利益以上に、信用やブランドといった価値の方が大切で、それらが結果的には利益につながるのです。ですので、目先が赤字だろうがなんだろうが、何十年も続けている、このような雑誌や書籍は絶対なくさないということを、ここで誓います。

質疑応答:競合の状況と差別化、御社の強みについて

坂本:競合の状況と差別化、御社の強みについて、一応じっくりお話いただいたため振り返りでもいいのですが、話し足りない部分をお願いできればと思います。年齢層のあたりのお話も含めて教えてください。

菊地:会社全体で見ると、真正面から競合になるような企業というのは、実はないのではないかと思っています。もちろん、「オズモール」は予約サイトですので、予約をやっているIT系の企業が競合になるかもしれませんし、出版事業は出版社が競合になるかもしれませんが、私は他社との競争という部分は、正直あまり意識していません。

それよりは、私も社員も読者やお客さまのほうを見ています。お客さまがやはりとても大事です。お客さまや読者は年齢、あるいは時代とともにどんどんと気持ちも考え方も変化していきますので、そこをとにかく見て、お客さまの心に寄り添っていこうと考えています。

結果的に、それが新しいマーケットの需要創造につながっていると思いますし、競合ばかりを意識すると、単なるゼロサムゲームで勝った、負けたの話になってしまいます。それよりは新しいマーケットや読者、お客さまを作っていくという考え方で経営しているつもりです。

質疑応答:中計期間中の大きな投資について

坂本:会場からいただいたご質問です。先ほども中計の修正に関するお話がありましたが、「中計の修正をしない理由、もしくはする理由を含めて、今期もしくは中計期間中に大きな投資があるのでしょうか?」というご質問です。

大きな投資があることによって利益が圧迫される可能性もあるため、修正が今後行われないかもしれないという考えもあるのですが、御社は、自己資本比率などを見ていても、この数年でだいぶ余裕ができている部分もあると思います。M&Aを含め、投資についてイメージがあれば、教えていただけたらと思います。

菊地:おかげさまで、キャッシュもだいぶ積み上がってきています。一般的なセオリーでいいますと、ここまで資金が積み上がるとそろそろ大型の投資はどうかと考えるのは、もちろん当たり前だと思います。しかし、実は今、私はあまりそこは考えていません。

これだけの大きなキャッシュがあるということで使い道を考えた時、コロナ禍になって「これはもう世界がおかしくなっている」と感じたことが思い起こされます。当時は本当に将来が見通せませんでしたので、「万が一、3年間まったく企業活動ができないような、とんでもない世の中になってしまうことだってなくはない」と感じました。

そのような状況でも、社員を食べさせることができ、ブランドもやめることなく、廃刊することもなかったのは、やはり今の資金があったためです。10年に1回くらい大震災が起きたり、今後もとんでもないことが起きたりするかもしれません。そのように考えると、ある程度の蓄えを持っておくことは大切だと思っています。

もちろん、社員や株主にも当然還元しなくてはいけないと思っていますが、「堅実経営」が私のモットーですので、無茶な投資はせずに着実にやっていきたいと思っています。

坂本:確かに、今の事業を継続して回していくだけでも、人材も揃っていますし成長は可能ですよね。

菊地:人への投資が一番大きいですね。ですので、新卒も来年はもっと、多めに採りたいと思っています。

質疑応答:紙の書籍の値上げについて

坂本:値上げのお話です。「御社の商品の売価を見ると、紙の書籍はほとんど値上げの様子が見られませんが、値上げを考えているのでしょうか?」というご質問です。

菊地:運送代、紙代とコストが上がってきているのは間違いないです。商品によりますが、文庫本だと580円、600円くらいのものですので、値上げしてもほんの数十円単位です。これをいきなり1,000円にするようなことは考えられません。

わずか10円、20円、30円という数十円単位でも、万単位で売れる商品が数多くありますので、それによってコストアップに関して一服できると考えています。

坂本:少し下世話な言い方ですが、人気の作家であれば、値上げしてもけっこう売れるのではないかと思ってしまいます。

質疑応答:『鬼の花嫁』のアニメ化について

坂本:「『鬼の花嫁』のアニメ化の話は出ていないのですか?」というご質問です。

菊地:『鬼の花嫁』のアニメ化については、お声はいろいろといただいています。先ほどお話ししましたが、IP専任の担当もつけましたので、さまざまなところに人脈を広げ、その可能性を探っている最中です。

特にこの『鬼の花嫁』は、小説がすでに7巻まで発売されております。コミックが小説の1巻から5巻まで出る予定です。このコミック1巻を作るのに、だいたい半年間かかります。そうすると、『鬼の花嫁』をすべてコミカライズして発刊していくには10年以上かかるのです。

この10年の中で、どこかのタイミングでアニメ化や映画化のお話が間違いなくあるでしょうし、今もすでにそのようなお話が上がっています。できるだけ早いうちに実現させ、さらに弾みをつけていきたいと考えています。

質疑応答:3本の作品の映画化と今期の業績予想について

坂本:「映画化が3本予定されています。映画化することによって、さらに原作本が売れるかもしれないというお話が先ほどありましたが、こちらの部分は今期の業績予想に入っているのでしょうか?」というご質問です。

「こちらの本が売れるから、このくらいの売上だろうな」とすでに業績予想に入れているのか、もしくは意外と読めない部分で、これから上振れる可能性を秘めているのかについて聞きたいのだと思います。

菊地:これだけの作品が映画化決定したとはいうものの、映画化は本当に決定するかはギリギリまでわからないことで、その上、映画化されるからといって、どこまで本が売れるかというのはまったく予測不可能です。

ただし、1つの事実として『交換ウソ日記』の映画化が決定し、「映画化」の帯が巻かれた瞬間から店頭でどんどん売れ始め、重版がかかっています。今後の展開次第ではかなりの重版がかかる可能性はあるかなと思います。

坂本:残りの2作品も可能性はあるということですね。

菊地:ただし、映画が公開されないとわかりませんので、そこはなかなか読み切ることができないです。

質疑応答:映画の興行収入とリターンについて

坂本:個人的な興味からのご質問ですが、御社の作品が映画化されると、やはり興行収入に対して御社に入ってくるお金があるのでしょうか?

菊地:製作委員会には、ある程度の出資をすることはあります。ただし、あくまでその出資でリターンを期待するビジネスを考えているわけではなく、出資をすることで、一緒のチームとして盛り上げていこうということです。

私どもは書店の映画化・映画化決定コーナーに、できるだけこの本を並べていただき、本を見て、映画館に行ってもらう人たちを増やしていければいいという考え方です。

坂本:非常によくわかりました。ありがとうございます。

菊地氏からのご挨拶

菊地:本日はありがとうございました。弊社の本は、女性向け、お子さま向けが多いため、もしかすると投資家のみなさまには、なじみが薄いかもしれません。

ぜひ、近いうちにご家族と、本屋に足を運んでいただき、スターツ出版の本を手に取って読んでいただけると、「こういう本を作っているのか」とご理解いただけると思います。これからもどうぞよろしくお願いします。