Raicol 社 概要
内田誠二氏:1月13日に開示したRaicol Crystals社の子会社化についてご説明させていただきます。はじめに、Raicol Crystals社の概要についてです。
Raicol Crystals社の設立は1995年で、本社所在地はイスラエルのロッシュ・ハーアイン市です。テル・アビブから車で東へ30分ほどの場所となります。従業員数は85名で、事業の詳細については後ほど詳しくご説明しますが、当社と同じような非線形光学単結晶と電気光学デバイスを製造している研究開発型の企業です。
取引の概要
今回の案件概要についてご説明します。Raicol Crystals社の株主構成については、Raicol Holdings社を大株主とし、その他少数の株主がいました。今回の案件に伴い、まずRaicol Holdings社が少数の株主から株式を買い集め、Raicol Holdings社がRaicol Crystals社の株式をいったん100パーセント保有します。
その後、当社がRaicol Holdings社より、Raicol Crystals社株式を100パーセント取得します。本件に係る買収金額は2,530万米ドル、日本円で約34億円を見込んでいます。本件に係る株式取得契約を、1月13日に締結しました。なお、本件のクロージングは3月1日を予定しています。
B/S、P/Lの連結は、当社2024年2月期第2四半期決算から開始予定です。また、Raicol Crystals社の2023年12月期の業績予想を織り込んだ当社の連結業績予想は、本年4月の本決算発表時に開示を予定しています。
イスラエル国について
次に、Raicol Crystals社が拠点を置くイスラエルについてご説明します。イスラエルは、サイバーセキュリティやIT、医療、環境、農業分野で優れた技術を持つイノベーション国家として、世界的に知られています。
1人当たりの名目GDPは世界第14位で、日本やドイツよりも高い順位となっています。また、「第2のシリコンバレー」と呼ばれ、年間800社から1,000社が誕生するスタートアップ大国です。
人口は約800万人、面積は四国と同程度でありながら、人口1,000万人当たりのスタートアップ数と海外からのR&D投資額は世界ナンバーワンです。
さらに、優秀な人材が確保しやすいなどの理由から、テル・アビブや北部のハイファを中心に、Apple、Intel、GE、Philipsなど400社を超えるグローバル企業が次世代商品の研究・開発拠点を開設するなど、世界の注目がイスラエルに集まっています。
Raicol 社のコア・テクノロジー
藤浦和夫氏:Raicol Crystals社のコア・テクノロジーについてご説明します。Raicol Crystals社は、フラックス法と呼ばれる単結晶成⻑技術を得意としています。
この方法で育成されるLBO、BBO、KTP、RTP、PPKTPなどの単結晶は、世界トップレベルの高い品質と信頼性を有しており、紫外から中赤外に至る、広い波⻑範囲でのレーザ学術研究や産業分野において幅広く利用されています。
当社がCZ法やFZ法など多くの単結晶育成技術を有しているのに対して、Raicol Crystals社はフラックス法に特化し、非線形光学単結晶や電気光学デバイスの研究・開発・製造に注力していることが特徴です。
Raicol 社の事業分野
Raicol Crystals社は、主力製品のそれぞれの特⻑を活かした応用分野で事業を展開しています。特に、宇宙・防衛、美容、量子、エネルギーなどの事業分野で競争力を発揮しています。
事業別売上高 (2021年12月期)
Raicol Crystals社の2021年12月期の売上高は10億9,900万円です。各事業分野の、昨年度の売上高比率は、宇宙・防衛分野が41パーセント、美容分野が19パーセント、量子分野が22パーセント、その他が18パーセントとなっています。
エネルギー事業分野は今年度から立ち上がってきており、2022年の売上高比率は約8パーセントに成⻑する見込みです。なお、同社の2022年12月期の売上高は最終的に確定していませんが、約16億円となる見込みです。
「宇宙・防衛」分野
ここからは、個別の事業分野について詳しくご説明します。宇宙・防衛分野では、高速光スイッチとして使用されるKTP単結晶とRTP単結晶を開発・製造し、イスラエルおよび欧米諸国に販売しています。
近年、米中対立による経済安全保障問題やロシアによるウクライナ侵攻をはじめとする地政学リスクに対する懸念から、宇宙・防衛分野への関心は世界的に高まっています。各国の防衛費予算も増加傾向にある中で、当社としてもビジネスチャンスのある重要な分野だと考えています。
航空宇宙や防衛の分野では、特に高いレベルの信頼性を持った材料やデバイスが要求されます。これらの単結晶は、人工衛星や航空機に搭載されるレーザ高度計、航空機に搭載され、対象物との距離を測るためのレーザレンジファインダー、同じく航空機に搭載され対象物を特定するレーザ照準器などに用いられています。
これらの製品において、レーザ光をパルス化して照射し戻り光との時間差を計測する、あるいは、符号化されたパルス光を照射して対象物を識別する技術を利用しています。そのため、高速で安定なパルス光の発生が必要であり、Raicol Crystals社の光学単結晶は高い信頼性を有する高速光スイッチとして利用されています。
製品の一例であるレンジファインダーの市況も、年平均成⻑率20パーセント以上の成⻑が見込まれており、Raicol Crystals社の単結晶に対する需要も大きく伸びると期待しています。
「美容」分野
美容分野では、パルスレーザ用の高速光スイッチや波⻑変換素子として使用されるKTP単結晶、LBO単結晶を開発・製造し、主に韓国、フランス、アメリカに販売しています。
美容分野の主なレーザとしては、YAGレーザが利用されています。このレーザでは、皮膚にダメージを与えることなく色素を破壊するために、レーザ光を高速にON・OFFするQスイッチと呼ばれる技術が必要です。
また、タトゥー除去には波⻑1,064ナノメートルの赤外レーザ、シミやそばかす除去にはメラニンの吸収率の高い波⻑532ナノメートルの可視レーザを用います。そのため、レーザの波⻑を変換する素子も重要です。Raicol Crystals社の光学単結晶は、光損傷耐性と波⻑変換特性が優れていることから、美容レーザのQスイッチや波⻑変換素子として広く利用されています。
近年、男女を問わず美意識の高まりが世界的な美容レーザの成⻑要因となっています。例えば、レーザ脱毛の世界市場規模は2022年で9億3,033万米ドルですが、2030年まで年平均成⻑率18.4パーセントで推移すると予測されており、Raicol Crystals社の製品に対するニーズも市場とともに成⻑すると考えています。
「エネルギー」分野
エネルギー分野では、スマートグリッドの電界センサとして使用されるRTP単結晶を開発・製造し、主にアメリカに販売しています。現在、再生エネルギーを利用する電力ネットワークへの転換が世界的に進んでいます。
スマートグリッドは、電力の流れを供給側と需要側の両方から制御し、最適化する送電網です。従来の電力網では、発電所からユーザーへの一方向の電力供給でしたが、スマートグリッドでは、多様な再生エネルギーによる電力が多くのポイントから供給され、双方向の電力の流れが生まれます。
そのため、スマートグリッドでは、グリッド全体の電力とその品質をセンサーネットワークでリアルタイムに計測し、その結果をもとに電力網を制御する必要があります。Raicol Crystals社の単結晶は、正確な電力情報を計測する光学センサとして、スマートグリッドの構築には欠かせない部品となりつつあります。
この分野の市場は、2019年で3億2,500万米ドルですが、2027年には12億2,161万米ドルに達すると予想されています。ニッチ市場ながら、年平均成⻑率が18.3パーセントであり、Raicol Crystals社製品の売上が、今後大きく伸びることが期待されます。
「量子」分野
量子分野では、量子もつれ光を発生するKTP単結晶とPPKTP素子を開発・製造し、量子分野で先行するアメリカ、カナダ、ドイツ、韓国などの研究機関や企業に販売しています。
諸外国では、量子技術を戦略的基盤技術として位置付け、政府による大規模な支援が行われています。また、⺠間でも、Googleを始めとする大手IT企業やD-Wave Systemsのようなスタートアップが、積極的な開発投資を行っています。
日本は、量子コンピューティングの開発で出遅れましたが、強みを有する光・量子技術を活用して、量子暗号通信の分野では世界をリードしています。2022年のノーベル物理学賞を受賞した「量子もつれ」という現象は、量子暗号通信や量子コンピューティングの開発において必要不可欠な要素技術となっています。
Raicol Crystals社のPPKTP単結晶は、この量子もつれ光を発生する最も有効なデバイスとして、学術研究や製品開発の分野で数多く利用されています。
Raicol Crystals社の単結晶が利用される量子暗号通信の市場において、ハードウエアに対する2026年の売上は約55億米ドルと言われています。
この内、PPKTP量子もつれ光源モジュールの市場は、5パーセントの約2億7500万米ドル、PPKTP単結晶の市場は0.5パーセントの約2,800万米ドルの市場規模と推定されます。Raicol Crystals社は、この量子もつれ光源モジュールの市場を狙っていきます。
また、Raicol Crystals社の波⻑変換デバイス技術は、当社の出資先であるLQUOM社が開発中の量子暗号通信システムにも利用される技術です。
事業分野の拡張と成長・シナジー効果
古川保典氏(以下、古川):本件により期待されるシナジー効果についてご説明します。1点目は、当社の事業分野の拡張と成⻑の加速です。当社は、光計測・新領域、半導体、ヘルスケアの3つの事業領域を有しています。
これまで、当社の独創性と競争優位性の源泉である単結晶技術と光学技術を活かして数多くの研究開発に取り組み、半導体、ヘルスケアの2つの主力事業に次ぐ事業創出を目指してきました。
今回のRaicol Crystals社の子会社化により、宇宙・防衛、美容、エネルギー事業へ新たに参入し、さらに量子事業を加速することができます。また、Raicol Crystals社が得意とするフラックス法の単結晶成⻑技術に、当社が保有する単結晶成⻑技術を融和させることで、半導体とヘルスケア事業で取り組んでいる、新材料の開発を加速させることができます。
2点目は、両社の事業分野における、シナジー効果と競争力の向上です。当社とRaicol Crystals社は同じ結晶業界の企業でありながら異なる単結晶を製造販売しており、競合する製品がありません。製品ラインナップが充実することで、お客さまへワンストップでの製品提供が可能となります。
その一例として、量子分野が挙げられます。Raicol Crystals社は、すでに世界各地域で多くの顧客を獲得しています。これに、当社の光計測・新領域事業における単結晶とデバイス化技術を加えることにより、量子分野のユーザーが現時点で求めているほぼすべての種類の波⻑変換結晶とメモリ結晶を提供できるようになります。
営業面におけるシナジー効果
3点目は、営業面におけるシナジー効果です。Raicol Crystals社は、アメリカ、ヨーロッパ、トルコ、中国、シンガポール、韓国、インドの世界各地域にディストリビュータとセールスリプリゼンタティブを持ち、既存顧客へのチャネルや広い販路網と、さまざまな知見や経験を有しています。
両社製品のクロスセルにより、効率的な新規顧客開拓と世界的な販売網の強化が見込まれます。
Raicol Crystals社の合理的なビジネススタイルや、同社が持つネットワークをフル活用することで、従来アクセスできていなかった海外顧客へのアクセスが可能となり、当社の海外展開のスピードを加速することが期待されます。
これにより、オキサイド・ブランドのグローバル認知度を上げ、当社が光学分野における世界有数の企業になる足がかりにしたいと考えています。
光学分野におけるグローバル・リーディング・カンパニーへ
当社は、単結晶・光部品・レーザ光源・光計測装置などを開発する企業です。物質・材料研究機構発のスタートアップとして2000年に設立し、現在では光学分野のエンジニアが多数在籍しています。
これまで、大手企業からの事業譲受や業務提携に積極的に取り組み、事業領域を拡大してきました。また、上場後は大学発スタートアップへの投資を行ってきました。
本件は当社として初めてのクロスボーダーM&Aで、特にイスラエル企業のM&Aでもあり、これまで行ってきた事業譲受や業務提携とは意味合いが大きく異なります。今回のM&Aを通して、経営スタイルの違い、ビジネスに対する姿勢を学び、あらためて投資戦略と多様性の確保の重要性を痛感しました。
我々が、彼らの経営哲学をオキサイドのビジネスに織り込むことができれば、成⻑可能性はさらに大きく広がると考えています。本件を皮切りに、光学分野におけるグローバル・リーディング・カンパニーを目指していきます。これからも研究成果を社会に還元し、キーマテリアルを世界に向けて発信し続けていきたいと考えています。
引き続き、変わらぬご支援の程よろしくお願いいたします。私からのご説明は以上となります。
質疑応答:Raicol Crystals社の子会社化の詳細について
質問者:Raicol Crystals社について質問です。素晴らしい会社を子会社化されたと思うのですが、M&Aに至ったなれそめと、なぜ先方が手放すことになったのかを教えてください。
加えて、主要市場のレーザレンジファインダーやタトゥーリムーバー、スマートグリッドにおける電界センサ、量子もつれについて、Raicol Crystals社のシェアや立ち位置にどれほどの優位性があるかをお願いします。
古川:私どもとRaicol Crystals社は同じ結晶業界のメーカーで、ある意味ではコンペティターでもあったため、十数年以上前から知っています。コンペティターではありますが、先ほどお伝えしたとおり同じ製品が競合しているわけではないため、これまでそれぞれの製品をお互いに販売することも多少ありました。
そこから今回のM&Aに至ったなれそめですが、ちょうど1年前にアメリカで開催された展示会において、Raicol Crystals社の社長から「ある特殊な面白い材料を開発しているが、それに興味はないか」とお話があったことからスタートしました。
その後、ある特定の事業分野に関して「ジョイント・ベンチャーを立ち上げよう」という話が進んだのですが、昨年6月に先方から「今までいろいろなことを検討してお互いの理解が深まったが、1つのカンパニーになったほうが面白いのではないか」という提案がありました。
そこからM&Aの検討が本格的に始まり、7月から半年程度で今回の合意に達しました。
2つ目の「なぜRaicol Crystals社が手放すか」という質問について、それは、オキサイドが株主になることで事業の成長を加速させることができると、Raicol Crystals社の経営陣が判断したためです。
加えて、ただ売上を増やすのではなく、オキサイドとともに事業を展開することによって、さらに大きなグローバルカンパニーに成長する可能性が高まることにRaicol Crystals社が興味を持ちました。
同時に私たちもRaicol Crystals社と共に事業展開することで買収金額以上にオキサイドの企業価値を大きく増やせる可能性が高いと確信したため、私のほうでM&Aを進めさせていただきました。
3つ目の質問であるRaicol Crystals社のシェアについては、今後は来期の予想も立つため、その時点でもう少し紹介させていただきたいと思っています。
質疑応答:Raicol Crystals社との競合関係について
質問者:Raicol Crystals社の件です。LBO結晶やBBO結晶、KTP結晶はオキサイドも作っていたかと思うのですが、これは実際の用途においてお客さまのところでは競合になることがなかったため、ライバルではなかったという理解でよろしいでしょうか?
古川:オキサイドの製品案内が正しく伝わっていなかったのかもしれませんが、LBO結晶、KTP結晶、RTP結晶に関して私どもは製造販売していないため、競合していません。BBO結晶は私たちの紫外レーザ光源の一部重要部品として使用はしているものの販売はしていないため、お客さまのところでバッティングすることはありません。
質問者:ありがとうございます。LBO結晶は御社の場合はCLBO結晶が同じ種類の製品となるのではないかと思ったのですが、いかがですか?
古川:LBO結晶は赤外光を緑色光に変換するところに主に使われています。CLBO結晶はその緑色光から紫外光に変換するところに使われているため、LBO結晶とCLBO結晶は似ているものの、使用する波長が異なっています。