~攻めのIR~Market Breakthrough 株式会社マイクロアド

山田幸美氏(以下、山田):「〜攻めのIR〜Market Breakthrough」のキャスターを務める山田幸美です。

井上哲男氏(以下、井上):コメンテーターの井上哲男です。

山田:今回ご紹介する企業は、株式会社マイクロアドです。スタジオには代表取締役社長の渡辺健太郎さんにお越しいただいています。よろしくお願いします。

渡辺健太郎氏(以下、渡辺):よろしくお願いします。

井上:御社は今年6月に上場されたばかりですね。

渡辺:はい、おっしゃるとおりです。

井上:データとテクノロジー、具体的にはコンサルティングとデータプロダクトによってマーケティングを変革する事業を展開しているとうかがっています。2つのサービスそれぞれの収益モデルや成長戦略についてじっくりお聞きします。よろしくお願いします。

マイクロアドの歴史とビジョン

山田:まずは、マイクロアドの歩みを簡単にご紹介します。2004年に株式会社サイバーエージェント内で事業を開始し、2007年に株式会社マイクロアドを設立します。2016年にはデータプラットフォーム「UNIVERSE」の提供を開始し、これを基盤としたさまざまな業界・業種に特化したプロダクトを提供しています。

そして、2022年に東証グロース市場へ上場しました。それでは、マイクロアドのビジョンなどについて教えてください。

渡辺:当社は「Redesigning the Future Life」というビジョンを掲げています。データとテクノロジーの力によって、未来のよりよい暮らしを作ることをビジョンとしています。

もともとは「広告を情報へ」というビジョンを掲げていました。これはいわゆるアドテクノロジーの会社として、どうしても邪魔に思われがちな広告をテクノロジーの力で消費者にマッチングさせ、意味のある広告を届けることで情報に昇華していこうという考えによるものでした。

2016年に「Redesigning the Future Life」というビジョンに変えたのですが、これはその年からさまざまなデータを使って、マーケティングを中心としたいろいろな商品の展開を始めたことがきっかけです。広告以外にもデータを使って、さまざまな分野に進出していこうという動きの中で、もう少し幅広いデータの会社になるために、広告という言葉を外した新たなビジョンを掲げて、現在に至ります。

井上:2016年12月の「UNIVERSE」の提供開始から、データ事業拡大に向けて進み始めたということですよね。

渡辺:おっしゃるとおりです。

井上:ここが1つのエポックだったということですね。

データは21世紀の石油

渡辺:当社はデータの会社ですが、よく「データは21世紀の石油」と言われます。20世紀、原油を精製して石油が生まれたことで、自動車をはじめとしたさまざまな産業が大きく成長しました。20世紀で言うところの石油にあたるものが、21世紀ではデータになります。

ビッグデータとAIを掛け合わせることで、いろいろなイノベーションが起こっていきます。私どもの事業はマーケティングが中心ですが、セキュリティや物流・小売の未来予測、他にも医療など、本当にさまざまな分野に使われているのがデータです。

井上:ここでキーになるのがイノベーションだと思います。ビッグデータとAIの掛け合わせまではできても、それぞれの業種に最適なソリューションである産業のイノベーションを提供するには、1社ずつマーケティングしていてもダメですよね。たくさんのデータがあってこそ、AIとビッグデータの掛け合わせで対応できるということですよね?

渡辺:おっしゃるとおりです。

井上:どこかの業種に特化している、例えば「金融には強い」というようなことではないのでしょうか?

渡辺:そのとおりです。いろいろな分析をすることで新しい発見がありますので、そのようなことの積み重ねによって、どんどん業種が広がっています。

井上:データが多ければ多いほどよいというのは確かですね?

渡辺:それは間違いないと思います。

事業内容

山田:御社の事業内容について教えてください。

渡辺:当社には大きく3つの事業があります。1つ目はデータソリューションサービスで、これが当社の主軸です。先ほどお伝えしたとおり、膨大なデータを使ったネット広告の商品をさまざまな業種に特化して展開しています。

2つ目はデジタルサイネージサービスです。街を歩いたり、電車に乗ったりすると、昔は看板だったものがデジタル化しているのをよく見ると思います。タクシーの社内やドラッグストアの店内などにデジタルサイネージを張り巡らせて、広告を配信するという事業です。

3つ目は海外コンサルティングサービスです。こちらはインターネットに特化した広告代理店だと理解していただければよいと思います。

データソリューションサービスのビジネスモデル

渡辺:データソリューションサービスのビジネスモデルについて、スライドの図にまとめています。まず、広告メディアとデータ保有企業から広告枠とデータを仕入れます。次に、私どものAIによって、仕入れたデータを分析することで商品を作っていきます。そして、仕入れた広告枠を経由して、飲料・食品向けや自動車向けなどの広告を配信することで、その対価として広告主から配信料金や広告費をいただくというビジネスモデルとなっています。

自動車業界向けプロダクト「IGNITION」

渡辺:データ分析と言われてもわかりにくいかと思いますので、ここでは自動車業界向けの「IGNITION」という商品でご説明します。まず、ビッグデータの収集については、自動車専門のWebメディア数社からアクセスログをお預かりします。

アクセスログは、「このブラウザが何時何分にこのページにアクセスしました」という単なるデータの羅列にすぎません。つまり、そのままだと使えないデータです。

それを私どもが独自にAIで分析することで、「このページにはトヨタの『レクサス』の新車のことが書いてあり、そこにこのブラウザからこれくらいの頻度でアクセスがあった」といった意味のある情報に整理していきます。このような分析によって、例えば「300万円台のSUVを検討している可能性が高い人」に絞って広告を配信するなど、広告主が希望する広告をニーズに沿って配信することが可能になります。

井上:データは初めはデータでしかないが、これをきちんと可視化するということですよね。結果的に、「今ターゲットにしている方にはこの広告を出すことが効果的です」というソリューションを提供できるのですね。

渡辺:おっしゃるとおりです。

山田:事業の強みについては、後ほど詳しくおうかがいします。ここからはマイクロアドの業績についておうかがいします。まずは前年度、2021年9月期の通期業績を振り返ってください。

マイクロアド グループ連結業績推移

渡辺:当社は9月決算ですが、2021年9月期の売上高は116億円、営業利益は1億8,600万円で着地しています。ちょうど前期まで新しいシステムへの先行投資を実施しており、前期までは、営業利益率が少し低くなっています。

ビジネスモデル毎の収益性

渡辺:ビジネスモデルごとの収益性を2つ挙げています。2つのビジネスモデルのうち、コンサルティングは広告代理業のような労働集約モデルです。こちらの売上総利益率が20パーセントとなっています。一方、注力しているデータプロダクトの売上総利益率は、その倍の40パーセントと高くなっています。

井上:ビジネスモデルはコンサルティングとデータプロダクトの2種類に分けられていますが、先ほどご説明いただいた事業は、海外コンサルティングとデジタルサイネージ、データソリューションの3つだったと思います。これらがどのように分けられるのかをご説明いただけますか?

渡辺:コンサルティングは主に海外が多いです。

井上:海外コンサルティングサービスはコンサルティングということですね。

渡辺:デジタルサイネージサービスと主軸のデータソリューションサービスが、データプロダクトに入ります。

井上:デジタルサイネージサービスと、「UNIVERSE」のようなデータソリューションサービスは、データプロダクトですね。今はデータプロダクトに注力して、利益率の高いほうを伸ばそうとしているということでしょうか。

データプロダクトの売上総利益シェア

渡辺:そのとおりです。注力しているデータプロダクトの売上総利益のシェアについて、このグラフは連結の売上総利益の総額に占めるシェアを示していますが、データプロダクトは順調に伸びています。直近である今期の上期においては、52パーセントまで伸びていますので、売上総利益の半分以上をデータプロダクトで稼ぐところまで成長しています。

井上:3期前は通期で20パーセントでしたが、今期の上期が終わった段階で52パーセントと、半分以上になりました。「ここを伸ばしたい」と言われていたデータプロダクトの売上が、確実に成長していると考えてよろしいですか?

渡辺:おっしゃるとおりです。

連結業績 22年9月期予想

山田:続いて、2022年9月期の通期業績予想についてもお願いします。

渡辺:2022年9月期の予想について、売上高は122億円と、前期比で4.8パーセント増です。営業利益は5億6,400万円と、前期比で203パーセント増であり、大幅に増えているという計画です。

純利益について、上半期累計で2億4,100万円になっていますが、通期の計画では1億3,000万円でした。これは第3四半期に海外の子会社を売却する予定であり、こちらの特別損失が発生するため、この数字になっています。

井上:海外の子会社を売却するとのことですが、どのような子会社ですか?

渡辺:中国の広告代理業を行っている子会社です。

井上:それを今期において、清算あるいは売却するということですか?

渡辺:売却です。

井上:そこで特別損失が出るということですね。営業利益を見ると、1億8,600万円から5億6,400万円と増加しており、これは前期のご説明にあったシステムの先行投資が完了したため、きちんとその部分が乗っかっており、売上高が伸びて、営業利益も本来の予想よりも伸びているというかたちでしょうか?

渡辺:そうです。

マイクロアドの3つの強み

山田:ここからは、マイクロアドの強みに焦点を当てます。では、御社事業の強みを教えてください。

渡辺:マイクロアドには、3つの強みがあります。1つ目が膨大な消費行動データを保有していること、2つ目がデータ分析と商品開発力、3つ目がマネタイズ能力です。

データプラットフォーム「UNIVERSE」

渡辺:1つ目の強みは、膨大な消費行動データを保有していることです。現在、200社以上のデータ保有企業からデータをお預かりしており、日本の人口以上にのぼる4億ユーザーの消費行動データを収集しています。

これらは本当にいろいろなシーンのデータです。働いている時のデータや、実際にポイントサービスの利用、お買い物をする時のデータ、それから映画を見に行く時やお出かけする時など、幅広いシーンでの消費行動データを持っていることが強みです。

業界業種に特化した商品を開発

渡辺:2つ目の強みは、データ分析と商品開発力です。私どもの商品は、業界業種に特化しており、例えば先ほどの自動車や、飲料・食品、化粧品など、17業種の商品を展開しています。

例えば、自動車に関するデータは、もちろん自動車メーカーには非常に有益ですが、一方で、ビール会社にとってはあまり必要のないデータであるなど、業種に特化していることは非常に大事なポイントです。

当社の企業向けサービスに「シラレル」というものがあります。この事例をご紹介します。

例えば、在宅勤務が増えた影響で、法人向けのノートPCは非常に伸びている状況です。このような法人向けにPCを販売したい広告主からの要望で、従業員数500名以上の規模の会社で、かつ備品の購入を管轄することの多い総務部の人で、ある程度決裁権のある部長以上の役職の人、という条件をいただいたとします。

私どものデータを使うことで、その条件に見合うユーザーだけに広告を配信することができます。このようなサービスで、広告費をいただいています。

プロダクト販売チャネル

渡辺:データを商品化して販売し、それによってデータを集めるという意味で、マネタイズ能力、販売する力が3つ目の強みになります。

当社は広告代理店経由の取引が非常に強く、おおよそ年間で400社ほどの代理店と取引しており、かなり長期的な取引の実績もあります。このような会社を通じて、広告宣伝費上位100社の大手企業のうち、87社に当社のサービスを利用していただいています。

このように、幅広い代理店網で、主要な広告主企業にデータを使った商品を販売できる点が大きな強みになっています。

井上:そうなると、はじめにデータを御社に提供した会社と御社にとって売上になるということですよね。それがこの流れによって、お金の流れとしては逆に戻っていくことになりますね?

オンライン・オフラインの配信ネットワーク

渡辺:そうですね。この強みのもう1つの側面として、データを保有していても、単にデータを右から左に流しただけでは実際の収益にはならないため、そのデータを使って実際に消費者に広告を届けるために、独自の広告配信ネットワークを持っていることが挙げられます。

例えばオンライン広告では、月間約580億回、広告を配信できます。ピンとこない数字かと思いますが、だいたい2週間くらいあれば、日本全国のインターネットユーザーに1度は広告を届けることができるくらいの規模です。

それだけではなく、冒頭にお話ししたデジタルサイネージもあります。インターネット以外の、オフラインのネットワークも現状13万面ありますので、いろいろな場所で消費者との接点があるところが強みです。

山田:ここからはマイクロアドの成長戦略を中心におうかがいします。では、今後の事業展望を含めまして、次なる戦略についてご説明ください。

マイクロアドの成長戦略

渡辺:マイクロアドの成長戦略は、3つあります。1つ目は、データプロダクトを引き続き伸ばしていくということです。ビッグデータを使ったマーケティングは、まだこれからの分野ですので、もっと拡大していきます。

2つ目は、来年2023年にスタートするCookie規制への対応です。

井上:具体的にはどういう規制なのですか?

渡辺:これは、GoogleChromeという1番シェアが高いブラウザがありますが、そこで来年の後半からCookieが使えなくなるという内容です。

井上:その部分ではデータを活用する御社や、データを活用する他の会社にとって、決して追い風ではありませんね。

渡辺:これは、プレイヤーによって逆風になる会社と、逆に追い風になる会社が両方出てくると考えています。当社で言いますと、いろいろなデータを提供する会社と取引がありますが、彼らもCookieが使えなくなると非常に困ります。

その代替の技術を、いち早くいろいろな会社に提供する準備をしており、しっかりと対応できれば、むしろ当社にとって追い風になるのではないかと思っています。

井上:Cookie規制への対応が取れていない会社の部分も、御社に追い風として吹くということですね。

渡辺:そうですね。そうなるように準備しているところです。

3つ目が、非広告分野へのデータ活用です。当社はデータの会社であり、現状はマーケティング、広告の売上がほとんどですが、データは広告以外でも本当にいろいろな分野で使える、まさに「21世紀の石油」だと考えています。このような新分野が3つ目の成長戦略になります。

金融業界向けデータプロダクト「オルタナティブデータ」

渡辺:その3つ目の成長分野である非広告分野へのデータ活用として、実はいろいろな事業を準備しているのですが、そのうちの1つを紹介したいと思います。

井上:近日リリース予定ですね。

渡辺:はい、そうですね。金融業界向けのオルタナティブデータの事業です。

これは、当社がマーケティングで培ったデータを金融業界向けに役立つ情報として活用できないかと、いろいろと準備してきたのですが、ある程度目処が立ったというところです。具体的に言いますと、冒頭で自動車業界向けのマーケティングの話をしましたが、あれはSUVの車種を買う可能性が高い人を未来予測する分析をしているのです。

これをもう少しマクロ的に、例えば「とあるメーカーのとある車種が3ヶ月後、半年後に販売台数が伸びるのか、伸びないのか」という予測を1年以上研究してきたのですが、けっこうな精度で当てられるようになってきました。会社ごと、車種ごとのそのようなトレンドをデータ化して、例えば自動車業界のアナリストの方などに販売する事業です。

井上:将来、アナリストのレポートの下にデータベースとして御社の名前や御社のAIの予想が載ってくる可能性もあるということですね。

渡辺:そうですね。

井上:オルタナティブデータは、トラディショナルな今までのデータややり方などに取って代わるということなのですか?

渡辺:今までのデータとは違った側面で、かつそれよりも早いタイミングでキャッチできることを目指しています。

質疑応答:他社に対する優位性について

山田:ここからは、番組に届いた質問にこの場で企業にお答えいただく「教えて一問一答」です。「およそ200のデータ保有企業から消費行動データを収集しているとのことですが、御社にできて他社にできない理由を教えてください」という質問です。

渡辺:全くできないということはないと思いますが、非常にハードルが高いと思います。なぜかと言うと、まずシステムが必要です。システムを作り、分析できる専門の人間を用意して、商品化し、広告にして販売するということを、0から行うとなるとなかなか難しいです。もっと簡単にできることが他にもあると思いますから、これはハードルが非常に高く、かつ時間がかかると思います。

私どもは、今では200以上のデータを扱えるようになりましたが、そこまで4年かかっています。加えて、それより前の段階でシステム開発や販売ネットワークなど、すべて用意していたため、本当にハードルが高い事業だと言えます。

井上:データを集め、それから分析します。集めるのもシステムで、中の分析もAIシステム、そしてそれから売っていきます。これを繰り返して初めてこのデータを送れるところもさらにデータを送れるようになると、そうするとやはり実績が必要だということでしょうか?

渡辺:そうですね。まさに実績を見て初めて預けていただけるため、スタートアップとなるとなかなか難しいと思います。

クロージングコメント

山田:渡辺社長は「データは21世紀の石油」とおっしゃっていましたね。

井上:そうですね。データと言うと、結局は統計です。僕は勉強が大嫌いですが、大学の時に統計学を学んだら夢中になりました。あの頃、統計を勉強して、データは広告と一番親和性が高いと思いました。40年経って、そのとおりになったとは思いますが、そのころはAIという言葉もありませんでした。

今は、データを分析して最適なかたちで必要な人にお届けするところまで来ています。昔はAIは考えられなかったけれど、今は結局どこの会社も使っています。しかし、AIは勝手にAIという子どもを生むわけではなく、最終的には人が作るものであるため、センスが必要です。結果的にこれだけの実績を上げたということは、きちんとセンスのあるAIがワークしているということです。そして今、非広告分野にまで進出してきました。

山田:そうなのですよね。

井上:あのお話はおもしろかったですね。だから今、統計やデータを超えた部分まで、もう世界は進んでいるんだと、そろそろ僕も引退だと思いました。

山田:そのようなことおっしゃらないでください。まだまだお願いします。

井上:おもしろい会社です。これからが本当に楽しみです。