本⽇の説明内容

仁藤雅夫氏(以下、仁藤):スカパーJSATホールディングス取締役の仁藤と申します。今日はご参加いただいてありがとうございます。よろしくお願いします。

本日の説明内容は、まず最初に、スカパーJSAT全体についてご説明し、そのあと2つの主な事業である宇宙事業とメディア事業、最後に業績や株価の推移についてご説明したいと思います。

スカパーJSATグループ

まずはスカパーJSATの全体のお話です。当社グループは、持株会社で東証一部に上場しているスカパーJSATホールディングスの傘下に、中核株主会社としてスカパーJSAT株主会社があります。

スカパーJSATは大きく宇宙事業とメディア事業に分かれており、宇宙事業は主として衛星通信ビジネス、メディア事業はみなさま「スカパー!」のブランドでご存知かと思いますが、衛星や光回線を使ったデジタル多チャンネル放送サービスを行っています。

事業規模

その両事業の代表的な数字を1つずつ挙げてみますと、宇宙事業では人工衛星19機を保有しています。「スカパー!」の多チャンネル放送では300万を超える加入件数を有しています。当社の連結グループの事業規模は、昨年度連結の売上で1,395億円、営業利益は153億円、税後の当期純利益は120億円でした。

事業別 利益⽐率

その利益で見てみますと、この円グラフのとおり、宇宙事業の利益貢献が非常に大きいところが特徴です。これは2019年度の当期純利益である120億円の内訳ですが、宇宙事業が64パーセント、メディア事業が36パーセントという比率になっています。

宇宙事業

本日はみなさまに馴染みの深い「スカパー!」の説明の前に、まずは利益貢献の度合いが高い宇宙事業についてご紹介したいと思います。こちらは人工衛星のお写真です。

このようなものを打ち上げているのですが、大体どのくらいの大きさかというと、両翼の太陽電池パネルを開いた状態で25mくらいの幅があります。小・中学校のプールの大きさくらいで、重さは3トンから5トンくらいあります。

衛星フリート

現在、北米上空からインド洋の上空まで計19機の衛星を保有しています。そのうち主に国内の「スカパー!」の放送に使われている人工衛星は専用のバックアップ機を含めて4機が放送用に使われています。残りは国内および海外を含めて主に衛星通信に利用されています。

管制局設備

今まで衛星についてお話ししてきましたが、実は衛星ばかりではなく、地上にもいろいろな設備を持っています。右下の写真は横浜にある主局の横浜衛星管制センターです。たくさんのアンテナが見えますが、この秘密基地のようなものが主局の横浜の衛星管制センターでして、副局が茨城県と山口県山口市にあります。右の中程と左のほうにアンテナが見えるのですが、そちらがそのような施設です。

そのほかに群馬や北海道、沖縄に運用の関連施設を持っています。北海道と沖縄の施設は衛星通信ではなく、宇宙から撮った衛星の画像をここで受信するという目的の設備があります。

世界の衛星オペレータランキング

このような設備を持って衛星の事業をしているのですが、世界の衛星オペレータで見ると、衛星の保有機数は世界で第4位と、アジアで最大の衛星オペレータになっています。世界最大の衛星オペレータはアメリカのインテルサットで、53機も衛星を持っているのですが、こちらとも北米事業で共同の衛星を運用するなど、一部でパートナーシップの関係もあります。

宇宙事業 分野別売上

このような衛星事業なのですが、一体どのようなものに使われているかというところです。宇宙事業の売上は2019年度ベースで535億円でしたが、その中の45パーセントが国内で利用されています。30パーセントを「スカパー!」の放送で使っています。それから残りの25パーセントですが、こちらは海外で利用したり、あるいは飛行機や船舶などのような移動体に使われているものです。国内で利用されている利用の仕方と、グローバル・モバイルでの利用の仕方については、これから簡単にご紹介します。

衛星通信 利⽤事例①

まず、国内では、災害対策のためにさまざまな衛星を利用しています。人工衛星は赤道上空3万6,000キロの宇宙にありますので、地震や水害といったような地上の災害の影響を受けにくいという特徴があります。

そのために各官公庁や通信事業者あるいは電力・ガス会社のように、国民の公共のインフラを支える組織が我々の衛星回線を災害対策用のバックアップ回線として多く利用しています。左側の写真を見ていただくと、携帯の基地局が地震で被害を受けて壊れているのですが、その隣に衛星通信用のアンテナを臨時で設置すると、たちまち基地局の機能を回復することができます。このように、災害対策の時に衛星通信を迅速に使って通信を回復することに利用しています。

右に見えるのは、東日本大震災の時の原発のモニタリングポストにアンテナを設置している絵です。これ以外にもテレビ局の中継回線や防衛省、海上保安庁などの国の安全保障に関わる分野でも当社の衛星回線を利用していただいています。

衛星通信 利⽤事例②

それから次のページにある、みなさま方の携帯電話の基地局からのバックホール回線としても当社の衛星回線が利用されています。バックホール回線とは、携帯の基地局と基幹網を結ぶ回線のことであり、衛星は災害時のバックアップ回線として使っているだけでなく、例えば離島や山間部のようなところで携帯電話を利用するためのネットワークとしても使っていますし、イベントを行う際の中継用としても利用していただいています。

「5Gとか6Gの時代になると衛星が使われなくなるのでは」とお思いの方がいらっしゃるかもしれませんが、モバイル通信の重要性が増せば増すほど衛星の役割も重要になってくるのです。

右下にある大きなアンテナの衛星は、今年度に運用開始したJCSAT-17号機という衛星でして、NTTドコモ専用の衛星として現在利用されています。

衛星通信 利⽤事例③

次に、航空機や船舶向けの衛星利用についてお話しします。飛行機や船は空の上や海の上にあるため、衛星以外に通信手段がありません。そのような意味では、衛星通信の成長分野として非常に期待しています。今年は新型コロナウイルス感染症の拡大によって、航空業界が非常に厳しい状況に置かれています。

したがって今年は、特に航空機向けの回線提供は想定よりも低い状況ですが、長期的には航空機・船舶に関して、通信を確保するという意味では衛星回線以外ないので、確実に増えていくものと期待しています。

グローバル 事業展開

当社は国内だけでなく海外でも衛星通信ビジネスを展開しており、現在は北米・ロシア・アジア・太平洋地域ですでにサービスを展開しています。ご覧いただいている地図で色の付いている部分が我々の衛星がカバーしているエリアです。

例えば、左の絵で南太平洋やインド洋にも提供エリアがあるのですが、昔はこのような人の住んでいないところに提供するビームは持っていなかったのですが、船舶や航空機がここを通るために、このようなビームを積んでいます。東京本社に加えて香港・ジャカルタ・ワシントンDCに活動拠点を設けて主にアジア・オセアニア地域を中心に営業を強化しています。

宇宙事業ビジョン

以上が、従来の衛星事業・宇宙事業・衛星通信ビジネスですが、2018年に我々は中長期ビジョンとして宇宙事業ビジョンを公表しました。少し複雑な絵になっているのですが、まず左のほうにピンク色で矢印が書いてあります。

この中長期のビジョンとして、まず最初に、今までは静止軌道にある衛星を中心に通信ビジネスを行っていたのですが、これからは海洋から地上、それから低軌道衛星・静止軌道衛星、それからそれ以上と……最終的には月に行くための通信の確保に至るまで、幅広く通信事業の領域を拡大していきます。

さらに衛星から、通信だけではなく、さまざまな地球の画像を撮ったり、いろいろなリモートセンシングを行ったりといろいろなデータが取れるわけですが、そのようなものを例えば地上のデータと合わせて有効な情報として、いろいろな方に提供するというビジネスへも参入し始めています。

このようなものはスペースインテリジェンス事業として力を入れており、新たな宇宙事業のビジョンをつくって事業展開し始めています。

『衛星防災情報サービス』提供に向け業務提携

インテリジェンスサービスの事例を示したものです。タイトルに「『衛星防災情報サービス』の提供に向け」と書いていますが、地図情報のゼンリン様と建設コンサルタントの日本工営様とタッグを組んで、衛星データに防災のソリューションと地図データを組み合わせて解析することで、右側に書いてありますが、平時では土砂斜面、河川の堤防や道路などの社会インフラを広域にモニタリングするという役目を果たしているのですが、災害発生時には迅速に被害状況を把握し、救難や復旧活動、ニ次災害の防止につなげていくためのサービスを来年からスタートしようということで、このような事業も展開しています。

宇宙ごみ除去技術の開発に着⼿

更に、少し毛色の変わった新しい取り組みとして、宇宙ごみの除去技術の開発があります。これは理化学研究所とJAXAと名古屋大学、九州大学とそれぞれ連携して、世界初となるレーザーを使って宇宙ごみ、スペースデブリを除去する衛星の設計や開発に着手しています。

絵のようなレーザーを搭載した衛星をつくり、ごみになった衛星にレーザーを照射すると、ゆっくりと不要な衛星が大気圏に落ちていき、燃焼して除去できるというかたちになります。最近、このようなスペースデブリの話題がよく聞かれますが、我々としてもこのような取り組みを行っています。

3サービスとオンデマンド

次にメディア事業の説明に移りたいと思います。まず「スカパー!」は3つの放送サービスとオンデマンドサービスに分類されます。図の一番左側にある「スカパー!」サービスはBS放送と同じアンテナで受信でき、デジタルテレビに内蔵しているチューナーを使って簡単に視聴できます。11月末現在で214万件の加入者がいらっしゃいます。

その次がチューナーを付けてアンテナ経由で視聴する「スカパー!プレミアムサービス」でして、こちらはチャンネル数が多く、現在87万件の視聴者に加入いただいています。また衛星ではなく光ファイバー経由で140チャンネル以上の番組を視聴できる「スカパー!プレミアムサービス光」というものもあり、現在8万件の視聴者に加入いただいています。

さらにスマホやタブレット、パソコンで番組を楽しめる「スカパー!オンデマンド」というサービスもありまして、こちらはプロ野球セットやサッカーセットを中心に放送契約者に無料でお楽しみいただいています。また放送サービスに加入していないお客さまも有料で動画をお楽しみいただけます。

多様なジャンルと商品ラインナップ

「スカパー!」の特徴の1つは図にあるとおり、非常に多様で魅力的な番組を百数十チャンネル以上提供しているということです。映画・スポーツ・アニメのように、ご家族でお楽しみいただけるチャンネルから、釣りや将棋、公営競技など、いろいろなお客さまの嗜好にお応えするチャンネルのラインナップがあります。

また、基本プランというものがあり、11ジャンルの人気番組50チャンネルが見放題になり、1家族でテレビ3台まで同じ値段でつなぐことができるサービスも提供しています。もちろん1チャンネルからでも視聴可能ということが特徴です。

加⼊件数推移

加入の動向はどのような推移をしているかということで、図は先ほどご説明した「スカパー!」のオンデマンドを除いた全体の加入件数の推移を示しています。

2002年には日韓ワールドカップがあり、そちらを「スカパー!」が全試合生中継しましたので非常に勢いよく、200万件を突破してから順調に拡大を続けていますが、いくつか加入が減少したポイントがあります。1つは「スカパー!プレミアムサービス」で標準画質放送……いわゆるSDを終了しすべてのチャンネルをハイビジョンにした時に、チューナーを全部入れ替えたのですが、チューナーを入れ替えるとお客さまにご案内したところ「そういえば最近あまり見てないね」とお客さまが思われたことで、加入者が減って、実質的な加入者になったというかたちになっています。そちらがポイントの1つです。もう1つは、2017年からずっとJリーグを放送していたのですが、放送権を喪失したということで、こちらでも加入者が減りました。

このところやや減少傾向が続いているのですが、こちらは最近の動画配信サービスの台頭による競争の激化で、急激に減っているわけではないのですが、影響が出てきています。とはいえ、11月末でも300万件を超える加入基盤は維持しているという状況です。

ファン・マーケティングによる効率的集客

300万件超の加入基盤を今後とも維持し、できれば拡大していきたいという時に、昔はマスに向かってアピールするやり方、あるいは量販店にインセンティブを払って、量販店で獲得していくというかたちをとっていたのですが、これからはそのような方法ではなく、さまざまなコンテンツのコアなファンの方に対して、興行あるいはオンラインイベントなど、放送以外の企画も含めてお客さまとの接点を増やし、興味・関心・満足度を高め、同時に「スカパー!」に対するロイヤルティーの向上や売上の拡大を目指すというような方法に変わっています。「ファン・マーケティング」というかたちで、解約率の防止など、加入いただいたらできるだけ満足度を高めて、長く加入していただけるように注力しています。

光回線を⽤いたテレビサービス(4K8K放送対応)

続いて、衛星ではなくNTTの光ファイバーを経由した、光再送信サービスのお話をします。

NTTの光回線を使って、我々は、地デジ、BS/CSの再放送、再送信を行うテレビサービスの提供をしています。アンテナの設置が要らず、すべての放送が流れてきます。4K、8Kも含めて、髪の毛ほどの光ファイバーの中にすべて乗っかってお宅まで届くということで「これさえ引いておけば将来どんなテレビが出てきても大丈夫」というようなサービスをやっています。

光回線を⽤いたテレビサービス拡⼤(4K8K放送対応)

これがけっこう伸びてきており、11月末段階での再送信サービスの契約者数は240万件ありますが、このサービスの提供可能世帯は全国31都道府県で実は3,200万世帯あります。

世帯のカバー率は約60パーセントですので、まだまだ伸びるポテンシャルがあるというサービスで、右側にグラフが出ているのですが、こちらでご覧のように、一度も純減することなく伸びています。

今までは東北エリアでのカバーがなかったのですが、最近、ケーブルテレビと協業モデルをつくって、東北エリアもこのようなかたちでカバーしていこうと考えています。

メディアHUBクラウドの構想に着⼿

「メディアHUBクラウド」です。左下の写真は「スカパー東京メディアセンター」という東陽町にある施設ですが、ここにコンテンツが集まってきているのです。

我々は、メディア向けの動画配信ソリューションの国内の最大手であるPLAYと組んで、コンテンツが集まってきている東陽町のメディアセンターとPLAYの配信ネットワークをつなげて、コンテンツ素材の集積基地、配信基地というかたちで、我々が持っているアセットの有効利用という観点で、放送だけではなく、いろいろなネット上での配信サービスを提供しています。

新ブランドスローガン

企業ブランディングの発案についてご紹介したいと思います。今年の10月から新たな企業ブランディング活動を開始しています。

平成元年に日本で初めての民間の通信衛星の打ち上げから始まって、衛星通信、デジタル多チャンネル放送など、常に新しいビジネスに挑戦してきています。

「未知を、価値に。」というメッセージには、これからもこのような夢のある新しいサービスを提供し続ける会社でありたい、という意味が込められています。このCMの映像をみなさまにも少しの間ご覧いただければと思います。

このようなかたちで、CMにはこのような宇宙事業をアピールする要素が含まれています。

連結損益概要

最後に、当社の直近の業績、株価の動向、株主の皆さまへの還元について簡単にご説明します。ご覧いただいているのが、今年の第2四半期の決算です。今年は新型コロナウイルスの影響で世界的な経済不況がもたらされていますが、幸い当社の事業においては、宇宙事業でも、メディア事業においても、影響は限定的です。

2020年度の第2四半期の決算は色をつけた部分で、左側には前年が出ています。前年同期が出ているのですが、増収増益になっています。今年度の通期業績予想は、連結の売上が1,390億円、連結の営業利益が160億円、当期純利益110億円を公表しています。

連結貸借対照表

バランスシートです。右側のグラフの「負債・純資産」のタイトルの下のあたりに小さい字で自己資本比率が出ているのですが、自己資本比率60パーセント以上をキープしていまして、安定した財務ポジションを継続している状況です。

連結キャッシュフロー

次にキャッシュフローの状況です。当社の事業の特徴として、通信衛星の調達に関わる設備投資に資金が多く必要となっているのですが、2018年度から2019年度にかけて新規の衛星調達に関わる設備投資が終わって、2020年度からはフリー・キャッシュフローが大きく改善しています。

色をつけたところがフリー・キャッシュフローで、前年と比べていただくとかなり大きく増加しているのがわかるかと思います。9月末の時点で280億円のフリー・キャッシュフローのプラスになっています。

当社株価の推移 (2019/4/1〜2020/12/4)

株価の動向です。2019年4月1日から今年の12月4日までの株価を赤い折れ線グラフで示しています。

新型コロナウイルスの影響で一時期株価が低迷していましたが、11月はじめに通期業績予想の利益の上方修正を公表しまして、それ以降、比較的安定に推移しており、先週の12月4日には終値で513円まで上昇し、出来高も幸い増加傾向にあります。本日の終値は509円でした。

株主還元

最後に、2020年度の配当方針についてご説明します。経営方針としては、この四角に書いてありますように、1株あたり年間16円以上かつ配当性向30パーセント以上と、両方を満たす配当を行う方針としていますが、ここのところ年間18円の配当を継続しています。2020年度においても、前年同様1株あたり年間18円の安定配当を継続していきたいと考えています。

私からのご説明は以上です。ご清聴ありがとうございました。

質疑応答:衛星について

星野彩季氏(以下、星野):仁藤さま、ありがとうございました。それでは質疑応答へ移りたいと思います。坂本さん、何か気になる質問などはありますか?

坂本慎太郎氏(以下、坂本):スカパー!と聞くと、テレビや放送というイメージが大きく、宇宙事業については、利益もそちらのほうが大きく、今日のお話しから理解が深まったとは思うのですが、けっこう「おお」と思った個人投資家の方がいたと思います。衛星についていくつかお伺いしたいと思います。

まず、衛星は先ほど25mはあるという話だったのですが、これを1回打ち上げると、どのくらいの期間使えるのかということと、いくらくらいするのかというところ、あとは、「もっと衛星を使いたい」と待っている人やニーズがすでにもうあるのかについてお伺いしたいと思います。

仁藤:まず、1回打ち上げるとどれくらいの期間使えるのかというご質問ですが、ほとんどの衛星の設計寿命は15年です。実際は衛星の寿命は設計寿命ではなく、燃料寿命でして、衛星は放っておくと少しずつ位置がずれてくるため、それを補正するために小さな推進用のロケットを積んでいます。その燃料がなくなると、「衛星の寿命がきた」ということになります。

最後に、自分自身で起動、離脱し、自分で捨てにいくのですが、燃料寿命までは15年以上長く使える衛星が多く、中には20年くらいまで使える衛星もあります。したがって、設計寿命が15年で、実際はそれよりももう少し使えるというようなものです。そして、1機あたりいくらかというところですが、だいたい平均すると打ち上げロケットのコストと保険も含め、衛星を1発打ち上げるのに200億円から250億円くらいかかります。打ち上げのコストがだいたい70億円から100億円、その中に含まれていますので、衛星を1機打ち上げるとそれくらいの設備投資になります。

坂本:1機1機がけっこう大きなものなのですね。20年で償却したとしても、年間10億円から15億円はかかるということですよね。

仁藤:そうですね。ご質問にあったように、なかなかニーズのないところにいきなり衛星を上げると、償却負担が発生しますので、これはちゃんと考えて上げていく必要があります。

現在、我々は19機の衛星を持っているとお話ししたのですが、かなりの部分は、この古くなった衛星の後継機を上げることが多いです。当然15年経つともう寿命が近いため、次の衛星を上げなければいけないのですが、前のお客さまがいますので、基本的にはそれを引き継いでいきます。

したがって、その時にプラスで新たなミッションを積めば、そちらのお客さまを開拓できますので、すでにお客さまがいるということは、リスクが少ないため衛星ビジネスにとって非常に安定しているといえます。

とはいえ、ずっとそのままでは発展性がないですので、やはり新しい市場を狙って衛星を売っていくということを行っています。最近の例でいくと「Horizons 3e」というハイスループットサテライトと呼ばれる大型の衛星がありました。

このようなものを打ち上げるのですが、我々はニーズがどのようなところから出てくるかがだいたいわかりますので、そのような分析を行った上で採算が見込めるエリアに打ち上げるようにしています。

当然、衛星をつくって打ち上げるのに2年から3年かかりますので、その間にプレマーケティングを行い、お客さまの予約をとっておきます。

質疑応答:モバイルの利用について

坂本:先ほどの質問と重なる部分もあるのですが、最近の打ち上げの目的がモバイル、航空業界などの通信利用になっているのですが、こちらの需要は固定して高いのですか? 

衛星は入れ替えで打ち上げているという話だったのですが、需要が増えているのかも含めて教えていただければと思います。

仁藤:モバイルの利用は着実に増えています。新型コロナウイルスの影響で航空業界はこれからたぶん回復にしばらくかかると思うのですが、飛行機でWi-Fi環境がないというのはなかなか許されない状況になってきていると思います。

坂本:やはり何もないと暇ですね。

仁藤:JALもANAも「フリーWi-Fi」と飛行機に書いてあるのですが、あちらは当社の衛星を使っているのです。現在は飛行機に乗る機会があまりないとは思うのですが、今後、飛行機に搭乗される時には、機内にフリーWi-Fiのシールを貼ってありますので、そちらをご覧いただいたら、「あれは当社の衛星を使っているんだな」と思っていただければありがたいと思います。

そのような意味では、ポテンシャルはものすごく上がっており、まだほんの一部でしか使っていませんので、新型コロナウイルスがあるのですが、中長期的に見ればやはりこのような利用が増えていくと思っています。また、船舶にはあまり新型コロナウイルスの影響はなく、順調に増えています。そのため、今後ともこのようなモバイル利用は我々としても重要なマーケットであると認識しています。

質疑応答:今後の投資先について

坂本:設備投資について、衛星調達関連は一巡ということで、先ほどフリー・キャッシュフローが増えているという話をいただきました。おそらく衛星のリプレイスはもう償却が終わり、また新しく耐用年数が終わったものを打ち上げることもあるとは思うのですが、今後の投資先で何かイメージされているものがあれば教えていただきたいと思います。

仁藤:リプレイスの衛星は定期的にある程度プランニングしてできますので、そのようなものを除き、我々としても新たなフィールドに事業を展開していくための投資は当然考えています。

例えば、今まで通信のビジネスを行っていたのですが、これからは例えば宇宙デブリが気になるということで、望遠鏡を衛星に積んで軌道上の状況をモニタし、危険を察知する情報ビジネスを行うための投資として、通信衛星ではなく望遠鏡を積むといったようなことがあります。

先ほどお話ししましたように、いろいろな情報……宇宙から地球を撮像したり、あるいはセンシングしたりという情報サービスを行う時に、そのような会社と提携したり出資したり、あるいは、自らそのようなセンシングの事業に出ていくための設備投資を行うことも、新たな投資のサブジェクトとして考えています。

質疑応答:株主還元について

星野:35ページの株主還元で、今、配当性向が30パーセント以上、年間16円以上の配当方針であると伺っているのですが、直近では18円と50パーセントを超えている状態です。このような高い水準をこれからも継続される予定なのでしょうか?

仁藤:そうですね。我々としては18円という、パーセンテージではなくて絶対額として18円という額を安定的に継続して配当したいと思っています。先ほども、衛星の打ち上げのタイミングで、例えば減価償却が終わった衛星が何機か集まると利益が出たりするのです。

その時にまたババっと打ち上げると、減価償却が増えて利益が減るように見えるのですが、実態はあまり変わらないのです。

坂本:変わらないですね。よくあるパターンですね。

仁藤:そのため、やはり事業の基本が安定して変化しないのであれば、安定的に配当するし、できるだけそちらの額も上げていきたいと考えています。

質疑応答:新型コロナウイルスの影響について

坂本:次は、新型コロナウイルスの影響なのですが、「スカパー!」の加入件数が高水準で横ばいになっているというお話しがあったのですが、Netflix等の台頭で、実際にユーザーとして見るテレビ・映画・動画の、バラエティが広がったと思います。「スカパー!」自体をやめてしまう人は、管理ベースで見るとそれほど見られないのですが、チャンネル数を減らす、ライトなプランにするようなユーザーはいたのでしょうか?

仁藤:やはりユーザーにとって非常にいろいろな選択肢が出てきていると思います。

昔は多チャンネルの放送網といったら「スカパー!」かケーブルテレビに入る以外の選択肢はなかったのですが、現在ではいろいろな選択肢がありますので、やはり新規のお客さまを取るのはそれなりに難しくなってきています。

そのような意味では、やはり「スカパー!」としても特徴を出したマーケティングをあらゆる商品で行っていく必要があります。例えば、基本プランは、ご家族がそれぞれいろいろな番組を観ますので、50チャンネル観ることができ、しかも3つのテレビに付けても同じ値段であるということで、あまり配信ビジネスの影響を受けることなく契約数は増えています。

「巣籠り需要」があったのですが、やはり引き続き、お客さまのニーズをちゃんと組みとり、それに合った商品を出していく必要があると思っています。

我々もネットを経由して観る他の配信サービスにお客さまのニーズがあるのはすごくわかりますので「スカパー!オンデマンド」のサービス充実も合わせて行っていこうと思っています。

質疑応答:宇宙ごみについて

星野:宇宙ごみについて、世界初のレーザー方式を採用ということなのですが、今までは先ほどご説明いただいたとおり、ジェットで軌道をずらして除去する方法をとっていたのでしょうか?

仁藤:宇宙ごみの情報サービスをまだ実際にやっているところはなく、現在は開発段階です。いくつか除去の手法があるのですが、例えば、衛星が金属製の網を使ってデブリをつかまえて、一緒に落とす方法や、宇宙ごみに対してレーザーを照射すると、照射したところから水力が出て、徐々に下へ落ちていくという方法があります。こちらは衛星がつかまえたりくっついたりすることもないので、衝突することなく落とせるという特徴があります。

静止軌道の衛星を落とすことはないのですが、地球の周りをグルグルと回っている低軌道衛星が不要になるとすぐに宇宙ごみとなりますので、そのようなものを落とすことを考えています。

坂本:将来的に技術がちゃんと確立すれば、他社からの仕事を請け負うことも考えられますか?

仁藤:そうですね。どのようなビジネスモデルになっても、低軌道衛星というものは何百機とたくさんあります。グルッと回って地球の写真を撮ったり、通信したりするということで、3年から5年くらいと意外に寿命が短く、放っておくと使えなくなるのがたくさん出てきてしまいます。そのため、衛星を使ってビジネスをする方々も、自分たちの衛星がごみになってしまうので、そのようなところと契約をして、ごみになった衛星を落とすようなサービスが想定されています。ほかにも「これだけとにかく落としてくれ」というような依頼があるかもしれないと思っています。

質疑応答:Ku帯とC帯の違いについて

坂本:船舶もそうなのですが、先ほどもお話しにあったとおり、航空機の中でインターネット通信ができるのはすごく進んだなと思っています。

Ku帯とC帯のカバレッジが2つあるのですが、こちらはどのような違いがあるのかを教えていただけたらと思います。

仁藤:「Ku帯」「C帯」というものは、電波の周波数の呼び方、周波数帯の呼び方です。

Ku帯は周波数が2cmとか2.5cmくらいの波長の電波です。C帯はもう少し長く、7cmや8cmの波長を持つ電波なのです。波長が長くなると、雨で切れることがない代わりに、通信速度が遅かったり、大きなアンテナが必要となる場合もあります。

ただ、雨で切れることがないですので、例えば、東南アジアにテレビ配信を行うときのように広いエリアをカバーするときにはC帯が良いのです。

Ku帯はアンテナが小さくて済みますので、放送用など、かなりの通信にはこちらのKu帯を使っています。しかしながら、BS放送や「スカパー!」を衛星で受けている方は、雨が降ったときに通信が切れてしまった経験があるかと思います。このようにそれぞれ特徴がありますので用途にしたがって使い分けています。

質疑応答:今後の事業ビジョンについて

坂本:よくわかりました。それでは、個人投資家からのご質問です。

「衛星通信事業が好調だということですが、通信衛星事業において、何か新しいサービスはお考えでしょうか?」というご質問です。未来像も含めて教えていただけたらと思います。

仁藤:通信事業ですと、先ほどのビジョンに掲げましたが、これからは衛星と地上を結ぶだけではなく、低軌道衛星は地球に情報を伝達するために自分が動いているため、通信が結構大変なのです。そのため、一度静止衛星に情報をあげて、そこから地上に送るというような、データ中継衛星のようなニーズもあります。

今までの通信事業のようなものだけではなく、データ中継のような光通信を作るということで、衛星や低軌道衛星、あるいは成層圏に飛行体を浮かべ、そちらと通信するようなことも、先ほど垂直方向にと言いますか、逆さ方向にいろいろな通信ビジネスを展開したいという話をビジョンのところでお伝えしました。

まだ研究段階のこともたくさんあるのですが、今までのような静止衛星だけでなく、いろいろなところで通信ビジネスを拡大したいと考えています。例えば、望遠鏡を積んだり、データビジネスを行ったりと、いろいろなビジネスを考えていきたいと思っています。数年前までは、我々の宇宙ビジネスを「衛星通信事業」「衛星事業」と呼んでいたのですが、それだけでは自分たちの事業領域は狭くなりますので、「宇宙事業」に変更しました。そのようなところも、事業ビジョンのあらわれになっています。